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「不完全さ」が人を動かす。プロトタイピングの探求者が、山形の地で挑む共創の形

2021年のインタビューから数年。ビジネスの最前線でプロトタイピングを実践してきた三冨敬太さんは、2025年10月、山形大学の准教授という新たなステージに立ちました。なぜ彼はアカデミアの世界へ、そして山形を選んだのか。自身の原点から、誰もがデジタル技術を使いこなし共創型のアプローチで地域課題を解決する未来まで、三冨さんの現在地を詳しく伺いました。

1. 原点は「センスのないエンジニア」としての成功体験

――まずは三冨さんのキャリアの歩みからお聞かせください。キャリアのスタートはエンジニアだったそうですね。

三冨: はい。最初はアプリ開発ベンチャーに入り、要件定義から開発まで幅広く担当していました。周りは大手コンサル出身者など非常にスキルの高いメンバーばかりで、周囲とのスキルの差や、自分のセンスのなさを痛感する毎日でしたね。
しかし、そこで面白い発見がありました。高いスキルを持つ人でも、認識がズレてプロジェクトがうまくいかないことが多々あったんです。

一方で、何もわからない私は、不完全な状態でも「こんな感じですかね?」と少しずつ作って見せながら確認を進めていました。すると、「ウサギとカメ」の話のように、結果的に私の方が手戻りなく、早くゴールに辿り着けることがあったんです。
これが、私が「プロトタイピング」の力を確信した最初の成功体験です。

そこから「このやり方は武器になる」と考え、体系的に学ぶために慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科へ進み、プロトタイピングを専門とする会社を立ち上げ、bridgeにもジョインしました。

2. なぜ「粗いプロトタイプ」の方が手伝いたくなるのか?

――三冨さんの研究されている「プロトタイピング」について詳しく教えてください。

三冨: 私のラボでは、「手伝いたくなるプロトタイプを狙って作る」ことを研究しています。
例えば、次のような精巧にできた二足歩行ロボットを見せられると、人は「すごい。でも高そう、重そう」といった、完成品に対する批評的なフィードバックを返しがちです。

しかし、次のようなレゴで作ったような粗い模型を見せられたらどうでしょう?
「そもそもこれ何のため?」「こう動かした方がいいんじゃない?」と、相手が「一緒に作るプロセス」に踏み込みやすくなるんです。

――「完成されていないこと」が、周囲を巻き込む余白になるのですね。

三冨:そうです。関連する話でいうと、bridgeのメンバーである鬼海さんが幼児食の宅配サービス「homeal」を立ち上げた際のエピソードも印象に残っています。
冷凍庫の専門家に話を聞く際、自分で実際に作った試作品を持っていったことで、専門家の方が真剣に話を聞いてくれて、巻き込みに成功したとおっしゃっていました。

粗くても良いので自分で作ってみる。それによって、熱量が伝わり、周囲を巻き込むことができるんです。必ずしもプロトタイプが「高忠実度」である必要はありません。「低忠実度」だからこその意味合いを追求しています。

3. 山形大学で始動した「社会共創デジタル学環」

――新たに着任された山形大学では、どのような役割を担っているのでしょうか。

三冨: 2025年4月に設立された「社会共創デジタル学環」に所属しています。
ここでは、デジタルとアントレプレナーシップを軸に、学部を横断して多様な分野を学び、地域の課題解決を目指しています。

山形は人口減少や高齢化といった課題が山積ですが、行政の力だけで全てを解決するのは難しい。そこで、市民がデジタル技術を駆使して自律的に課題を解決できるような、アントレプレナーシップを持った人材を育成しています。
今は3D技術も発展し、高齢者の方々も含め、誰もがすぐに「ものづくり」に関わることができます。周囲がつい手を貸したくなるようなプロトタイプを戦略的に制作し、地域の方々との共創を通じて、課題を解決するーー。
そんなアプローチを実践するため「社会共創デジタル学環」の中に、「共創プロトタイピングラボ」を立ち上げました。

――「共創プロトタイピングラボ」では実際にどんな活動をされているのでしょうか。

三冨:主な活動は、地域課題解決を軸としたアクティブラーニング形式の授業や、デザインプロジェクトの運営、民間企業との共同プロジェクト・研究などです。
具体的な例として、共創実践演習Ⅰという授業では、山形市社会福祉協議会と連携して、地域のシニアの方を授業にお招きして、学生にインタビューをしてもらうなど理解を深めてもらった上で、デジタルを活用してプロトタイプをつくり、デザインプロセスを回して、最終的にソリューションを提案します。
また、こちらはラボとしての研究で、70代などシニアの方が、音声インタフェースでAIと対話することで、自ら感じている課題を解決するプロトタイプをつくることができるのではないかと考え、実験を開始しようとしています。

4. 70代の「作り手」が地域を変える未来

――高齢者の方々がプロトタイピングに関わるというのは、非常に新しいアプローチですね。

三冨: 山形はシニアの方が非常に多い地域です。
これまでのテクノロジー活用は若者や現役世代が中心でしたが、今の技術ならLINEのようなチャットベースで物作りが可能です。

70代、80代の方が、自分の身近な課題を解決するために自らプロトタイプを作り、周囲を巻き込んでサービスを形にする。そんな「誰もが作り手になれる社会」を目指しています。
もちろん、一足飛びには難しいので、地域のハブとなっているキープレーヤーの方々からワークショップに巻き込み、その可能性を広げていく戦略をとっています。

5. 仕事を加速させる「3・7・10」の法則

――多忙な活動の中で、三冨さんが仕事をする上で大切にしている価値観はありますか?

三冨: 昔から変わらないのは、タスクを寝かせながら段階的に仕上げる手法です。

・3割の完成度: 依頼された瞬間に、まずはテキストベースで作って一度見せる
7割の完成度: 3日以内に形にし、再度見せてフィードバックをもらう
・10割の完成度: しばらく寝かせ、新しい視点を取り入れてから一気に仕上げる

最初に見せることで周囲の不安を消し、7割の段階で修正しやすくする。
最後に寝かせることで、自分でも想定していなかった「ジャンプしたアウトプット」を生み出すことができます。
これはプロトタイピングの思考とも通ずるものがありますね。

6. bridgeでの役割と今後の展望

――最後に、bridgeでの今後の活動と、これからの展望を教えてください。

三冨: bridgeが今注力している組織の「自走化」は、私の研究テーマとも非常に親和性が高いです。組織や現場の担当者がどう動けばいいのか、その方法論を研究を通じて明らかにしていきたいですね。また、山形という世界の先を行く課題先進地で見つけ出した手法は、日本各地、さらには世界にも持っていけるはずです。

プロフィール

三冨 敬太(Keita Mitomi)

山形大学社会共創デジタル学環准教授。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科後期博士過程在学中。プロトタイプの持つ未完成性に着目し、解釈プロセスに応じたデザインについて研究している。著書に『失敗から学ぶ技術 新規事業開発を成功に導くプロトタイピングの教科書』(翔泳社、2022年)。主な論文に“Understanding How Prototypes Are Interpreted: A Structural Model of Final Product Interpretation”(The Design Journal,2025)など。2021年よりbridgeに参画し、新規事業創出におけるプロトタイピングの導入や組織開発を支援している。

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