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顧客課題と提供価値を整理する「バリュープロポジションキャンバス」の使い方

顧客課題と提供価値を整理する「バリュープロポジションキャンバス」の使い方

昨今のEコマースやソーシャルネットワークの普及により、顧客が自社や自分の商品を知り、購入し、使い続けていく購買行動のプロセスが複雑化しています。消費者がより自分に合った商品を、自分が好むスタイルで購入できるようになりました。
そこに、機能的な価値やデザイン的な価値、その商品を得ることで実現する意味的な価値をしっかりと定義し、正しく訴求していくことが重要です。それができれば、個人や小規模事業者でも、顧客に支持され続ける事業・商品を創ることが可能です。

そのために有効なフレームワークが「バリュープロポジションキャンバス」です。

目次:
1. バリュー・プロポジション・キャンバスとは?
2. ビジネスモデルデザインの土台となる”3W1H”を定義する
3. バリュー・プロポジション・キャンバスの使い方と事例
4. バリュー・プロポジション・キャンバスの使い方手順
(1)キャンバスを書く
(2)課題の優先順位をつける
(3)提供価値の優先順位をつける
(4)3W1Hを文章で明文化する
5. バリュー・プロポジション・キャンバスの次にすべきこと

自社の強みという価値を見える化しよう

1.バリュー・プロポジション・キャンバスとは?

「バリュー・プロポジション」とは、日本語に訳すと「価値提案」となりますが、ビジネスデザインにおけるこの価値提案とは、「顧客のニーズに対して、自社/自分の強みを生かして提供できる価値」と捉えます。
その上で、既存の商品や、他の代替手段ですでに解決されていない領域を定義します。

バリュー・プロポジションは、何か新しい事業や商品を企画しビジネスとして成り立たせていくうえで、①未解決の顧客のニーズに対して②自社/自分が提供できる価値を定義し、③既存の商品や、他の代替手段ですでに解決されていない領域を見つけ出す、一番最初に定義すべき最も重要な要素になります。

顧客のニーズと自社/自分が提供すべき価値を6つの項目で整理し、定義するフレームワークが、今回ご紹介するバリュー・プロポジション・キャンバスです。

2. ビジネスモデルデザインの土台となる3W1Hを定義するー

バリュープロポジションを定義する際には、次の3W1Hを明文化します。

  1. 1.誰の(Who)
  2. 2.どんなシーンでの(When)
  3. 3.どんな課題を(What)
  4. 4.どのように解決するのか?(How)

例えば、次の3つのメジャーなコーヒーチェーンのビジネスを考えてみてください。

  • スターバックス
  • ルノアール
  • ブルーボトルコーヒー

これらはどれもカフェですが、全く異なる3W1Hで訴求し、それぞれ異なる顧客層を獲得していることがイメージできるはずです。同じカフェでも、なぜ顧客がそのお店にいくのか?商品を選択する上でその理由はさまざまです。そこには、コーヒーの味や品質、店舗の居心地、ブランドデザインなど、多くの訴求ポイントがあります。

ビジネスモデルを描く際に、ついあれもこれもと多角化しようとして、小さな価値を寄せ集めたハリボテになってしまうことはありませんか?結局、何の特徴もない商品に仕上がってしまう、罠に陥ってしまうことはないでしょうか?また、つい儲かっている競合の調査をし、結果、そのコピーができあがってしまうことはありませんか?

できあがったビジネスモデルキャンバスには、最も重要な価値である「顧客が自社や自分の商品を買う理由」があることが必須です。もしそれが欠如していれば、顧客に支持され続ける商品として持続させるためには、価格を下げる以外の手段がなくなってしまい、結果的に価格競争の中で利薄多売に苦戦せざるを得ない状況に陥ります。

商売の本質は、「欲しくさせる」のではなく、「欲しいものを提供する」ことが大前提なはず。顧客の悩みや不満に寄り添い、『自社や自分がどのような価値を提供できるか?』のアプローチでビジネスを創造していくことは、広義な意味でのマーケティング活動の重要なポイントです。

ビジネスモデルデザインにおけるこのバリュープロポジションは、建築に例えれば、地盤や土台になる核の部分です。ここをしっかりと造成しておかなければ、どれだけ斬新で豪華なソリューションアイデアを建てても、顧客に支持され続ける安定したビジネスを実現することは難しくなります。

そこで重要なのが、バリュープロポジションを明文化し、ビジネスの正しい土台を作るフレームワーク「バリュープロポジションキャンバス」です。

3. バリュープロポジションキャンバスの使い方と事例

バリュープロポジションキャンバスでは、次の2つの図の中にある、3つの項目ごとにできるだけ多く書き込み、顧客にとって最も重要な未解決の課題に絞り込んでいきます。

  • 顧客の課題(右の丸枠)
  • 提供価値(左の四角枠)

といっても、なかなかすぐにイメージが湧かないかもしれないので、ひとつ例をご紹介します。

【これまでにない女性専用フィットネスクラブ 】

国内店舗数2,000店、会員数25万人を誇る女性専用のフィットネスクラブの「カーブス」。次の「3つのNo」をコンセプトとして徹底し、中高年女性を中心とした顧客に支持されています。

  • No Mens(男性なし)
  • No Mirror(鏡なし)
  • No Makeup(化粧不要)

では、カーブスは、どのような3W1Hを実現させたのか?見てみましょう。

まず、もしカーブスが競合他社の真似をしていたなら、男性なし・鏡なし・化粧不要というコンセプトには至らなかったはずです。

また、最も注目すべきは、「安い・便利」といった機能的な価値だけではなく、対象顧客の情緒的欲求つまり、「心の声」に応えるソリューションを実現させていることです。つまり、「男性の目にさらされる恥ずかしさ」「変わらない体型を直視しなければならない精神的ストレス」「身だしなみに気を使う手間」といった、言語化されていなかった中高年女性の情緒的ニーズです。それを的確に捉え、これまでにないコンセプトのフィットネスクラブをソリューションとして提供したことで、ビジネスが大成功しました。

さて、同じダイエット系ビジネスでも、どのような3W1Hを捉えるかによってソリューションも全く異なります。以下の2つの事例も見てみましょう。これらのダイエット支援のサービスは、誰のどんな課題に対し、どのようなソリューションを提供しているでしょうか?

「寝るだけダイエット」

「ライザップ」

4. バリュープロポジションキャンバスの使い方手順

(1)キャンバスを書く

前述の通り、顧客の課題(右の丸枠)と、提供価値(左の四角枠)それぞれの中の各3項目を埋めていきますが、以下の順に書いていきます。

顧客の課題

  1. 1.嬉しいこと
  2. 2.嫌なこと
  3. 3.実現したいこと・解決したい課題

提供価値

  1. 4.嬉しいことを増やす
  2. 5.嫌なことを減らす
  3. 6.商品/サービス

2と3、4と5については、どちらに書くべきか悩むことが多いです。しかし、例えば、『出費を減らすのは嬉しいけれど、逆に出費が嵩むのは嫌』のように、嬉しいことと嫌なことは得てして相反するため、どちらに書き込むかは、あまり問題にはなりません。まずは、思いついたことを書き出していきましょう。コツとしては、「嫌なこと」つまり、痛みや悩み、困りごとといったネガティブな課題にフォーカスすることで、より強いニーズを見つけ出すことができます。

なお、アイデアは直接キャンバスに書き込むよりも、横長の付箋に書いて貼ると、後で整理しやすくなります。

そしてこの際に、「誰」のための課題解決か?という前提から外れないように注意しましょう。アイデアを量産することに意識が向き、誰のための課題整理なのか?がつい曖昧になってしまいがちになるため、常に根本に立ち返ってみてください。「誰」を想定する上では、自分と似た属性の人や、具体的にイメージできる実在する人をイメージしてみると、アイデアが出やすくなります。また複数人のチームでアイデア出しをする場合は、議論しながら「誰」のイメージを描いていくこともできます。

(2)課題の優先順位を付ける

顧客の課題(右の丸枠)の3つの枠を埋めたら、それぞれを「顧客の視点での重要度」で優先順位を付けていきます。図のように、付箋を上から下に並べていくやり方が手軽です。

なお、この際に、つい『こんな課題を持っている人は多そう』という視点に流されてしまいがちですが、このときにも、「誰」を意識することを忘れないでください。

(3)提供価値の優先順位を付ける

『顧客の優先度の高い課題に対して整合しているか?』の「貢献度」と、『すでに世の中に存在する解決策ではないか?』の「新規性」の二軸で優先順位を付けていきます。ユニークなアイデアであっても、顧客の優先度の高い課題に整合していなければ優先度は低くなりますし、顧客の優先度の高い課題に整合したアイデアであっても、すでに世の中に存在するソリューションであれば、優先度は低くなります。

ただし、アイデアとアイデアの組み合わせで新規性がもたらされることもよくあるので、議論しながら優先順位を付けてみましょう。

なお、アイデアの優先順位を考えている中で、さらに新しいアイデアが湧いてくることもあります。顧客の課題に対して貢献度・新規性が高い新たなアイデアが出てきたら、それらも追加しましょう。

(4)3W1Hを文章で明文化する

顧客の課題と、提供価値の優先順位の高いものをピックアップし、文章に落とし込みます。この段階までくれば、自分たちの新事業や新商品の方向性が明確に見えてくるはずです。

  1. 1.誰の(Who)
  2. 2.どんなシーンでの(When)
  3. 3.どんな課題を(What)
  4. 4.どのように解決するのか?(How)

5.バリュープロポジションキャンバスの次にすべきこと

次は、ビジネスを創造していく上で、不可欠な以下の3つの検証ポイントのうち、バリュープロポジションキャンバスで定義した仮説をベースに、(1)(2)をリサーチしていきます。

  • (1) 顧客は本当にその課題を持っているか?
  • (2) その課題に対し自分たちのアイデアは妥当であるか?
  • (3) その商品の市場は存在するか?

バリュープロポジションキャンバスをアップデートし続けよう

定義した課題を持つ属性の人へのインタビュー(ユーザーインタビューやグループインタビュー)、その領域の専門家へのエキスパートインタビューなどを実施することが一般的です。その過程で、バリュープロポジションキャンバスを書き変え、仮説の精度をより高めていくことを繰り返します。

ビジネスモデルデザインに関する全てのフレームワークに共通して言えることですが、得てして、フレームワークを使うことがゴールになってしまいがちです。しかし、フレームワークはあくまでアイデアを整理するツールに過ぎません。バリュープロポジションをしっかりと築いていく上でも、仮説・検証を常に繰り返し、「正しい問い」を追求していくことが不可欠です。

バリュープロポジションキャンバスは、裏紙やホワイトボード、付箋があればいつでもどこでも気軽にアイデアの整理ができます。ぜひ日頃からフレームワークに当てはめて仮説を立ててみる、という習慣を付けてください。こんな苦難の時代ですが、ぜひ、誰かを幸せにできる、ワクワクするビジネスを創っていきましょう。

 

▼類似の事例記事はこちら「イトーキ:「デザイン思考」で磨くこれからの空間提案」

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