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間違いだらけのリーンキャンバス-フレームワークの本当の使いかた-

「事業開発」という言葉だけを聞けば、何やら格好いいイメージかも知れませんが、現実は泥臭く、困難なことの連続ばかりです。事業開発の手法や成功事例にもアクセスしやすくなった昨今、『どんな事業をするのか?』というWhatよりも『どう事業をするのか?』といった、Howの部分にこだわる機会が多くなった気がします。とはいえ、Howの流行り廃りに流され、目的を見失い、『フレームワークって、使えないじゃないか!』といった、手段の善し悪しばかりがメディアで論争されているようにも感じます。

今回はいろいろなフレームワークのうち、事業構想によく使われるリーンキャンバスを取り上げて、各項目を解説します。

フレームワークは何のために使うのか?

リーンキャンバスの前に、そもそもフレームワークとは何なのか、定義から紹介します。フレームワークとは、以下の3つのセットで、対象内の問題解決や意思決定をしやすくするためのテンプレートのことです。

  • beliefs   フレームワーク内で正しいとして信じている事物
  • ideas     概念 フレームワーク内の用語の定義
  • rules     規則や法則 フレームワーク内で有効な手順やメソッド

これら3つの関係は、まず、対象内の問題解決をするために、正しいと思う理論(belief)を規定します。そこに齟齬が生れないように言語で定義(idea)し、再現性のある手順(rules)に落とし込んでいく。その枠組みが、フレームワークであると言い換えることもできます。

フレームワークは、あくまでも手段なので、必ずしも使う必要はありません。それでも使う動機には、情報を整理しやすいとか、再現性や可視化、コミュニケーションなど、いろいろあるかと思います。ただ、整理目的のためにフレームワークの項目を埋めて、何となくできた感だけを味わって終えるような使い方では、フレームワーク本来のメリットを活かし切れません。

事業開発のためのフレームワーク活用は、単なる情報整理ではなく、アイデアを頭の外に出して全体像を俯瞰することです。他者とディスカッションするための叩き台という意味合いが、最もしっくりくるのではと考えています。そのため、目的達成のためにフレームワークが持つbeliefs、ideas、rulesという、3つの手段の本質を捉えて活用することが重要です。

 

本質を捉えたリーンキャンバスの9項目と書きかた

リーンキャンバスとは

ではここから、リーンキャンバスについて説明します。リーンキャンバスは、9つの項目でビジネス構造を俯瞰するフレームワークです。ビジネスモデルキャンバスの派生版で、顧客視点を強化したフレームワークになっています。
ビジネスモデルキャンバスについてはこちらから

リーンキャンバスを活用することで、9つの制限された視点でビジネスの全体像を可視化できます。他者とのコミュニケーションを円滑化し、事業の検証サイクルを早めることが可能になります。

リーンキャンバスの書くコツは以下の3点。各項目について解説していきます。

  1. 1.一気に描く
  2. 2.空欄OK、各項目の正解・不正解にはこだわらない
  3. 3.いつ時点かを明らかにする

 

 

1. 課題

事業の土台は課題解決です。解決すべき課題について書きましょう。その課題の代替手段も考察すると、課題をより捉えやすくなります。課題を上手く捉えられないという方には、「ジョブ理論」がおすすめです。『人は、特定の状況でジョブ(課題)を解消するために、サービスを雇う』というジョブ理論の捉え方は、本質的な課題を探求するために有用です。

2. 顧客

その課題を抱えている企業や人について考察します。ざっくりとしたセグメントだけではなく、最初にお客さんになってくれそうな人(アーリーアダプター)を、身近な人物などを参考にしながら、具体的想像できる人物像として描くことが大切です。

3.価値

課題解決に対して提供できる価値を記載します。『最大のポイントは何か?』『顧客がお金を払いたい価値なのか?』を考えます。

4. 解決

価値提供のソリューションを記載します。商品の機能や特徴についてのアイディアをまとめます。課題の検証フェーズでは、課題そのものが正しいか検証できていないため、詳細にまでこだわる必要はありません。

5. 販路

顧客にリーチするチャネルを記載します。スタートアップ時は、最初の100人(アーリーアダプター)にリーチする安価なチャネルについて考えましょう。

6. 収益

売上形態と、大まかな市場規模を類推し、収益構造を検討します。顧客数と課題解決に費やしている現状コストから、算出することが可能です。どの規模の市場を狙うのかを明らかにします。

7. 指標

ビジネスを評価するための主要指標を記載します。活動評価の基準を設定する意味合いもありますが、『ビジネス成功のためのKPIは何か?』も探求していく項目です。目標を定めるためにも、現時点での指標を数値で設定することがポイントです。

8. コスト

ビジネス活動のために必要なコストを記載します。特に、初期費用の大きな投資が必要となるビジネスアイデアの場合は、重要な要素になります。

9.優位性

競合に対する優位性(強みや差別化ポイント)を記載します。競合を知り、自社のポジショニングを明確にしましょう。例えば、既存のチャネルやネットワーク、内部情報や顧客基盤などが優位性に成り得ます。これは事業を拡大していく段階で重要な視点なので、アイデアを着想した段階で埋められなくても構いません。

リーンキャンバスの陥りやすい間違い

すべての項目を埋めなければならない、各項目の正解・不正解にこだわる

リーンキャンバスは、検証を重ねてブラッシュアップしていくものです。そのため、最初から各項目の真偽にこだわらなくてよく、すべての項目を埋める必要もありません。事業の土台である誰(顧客セグメント)の課題に対して、どんな価値提案をするのかの項目だけは必ず埋めましょう。後は、適度に見直しながらブラッシュアップを繰り返していきます。

いつの時点を思い描いているのかがわからない

リーンキャンバスを作る時は、いつ時点の計画かを考えることが重要です。ビジネスフレームワークの多くは、時系列の概念を表記する項目がなく、ある地点でのキャプチャであることが多いのですが、時系列を意識して活用することが重要です。リーンキャンバスとしてまとめる構想の売上やコスト、KPI、ソリューションの形態は、『これは今から3か月後の姿か?1年後なのか?』というように、いつの時点の構想なのかを考えて描くことが大切です。時系列を意識して基準を設定することで、上手くいっていない事業がずるずる続いてしまうことを防ぎます。

みんなで一つのリーンキャンバスをつくろうとする

組織で動いていると、メンバー全員で0から一つのものをつくるということもあるかもしれません。全員が合意しているという安心感があるかもしれませんが、総意は面白くないアイディアに終わる可能性もあります。成功と評価されている事業の例をいくつか紐解くと、誰か一人の熱に共鳴しているケースが多いと気付くはずです。まずは、徹底的に個、一人で素案を生み出し、検証を通じて洗練させていく使い方をお勧めします。

リーンキャンバスを補完するフレームワーク

ビジネスフレームワークを単体で活用すれば、制限された視点で、短時間でまとめられるメリットがあります。しかし、それだけでは足りない視点があるのも事実です。そこで、リーンキャンバスを補完するフレームワークを紹介します。

ビジネスを取り巻く環境の視点はPEST分析

考えついたビジネスも、『法律上、問題ないのか?』など、自社でコントロール不可能な外部環境の影響を受けます。政治(Politics)と経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4視点を加えることで、リーンキャンバスで構想したビジネスに影響を及ぼす外部環境を考察できます。

業界構造、競合の視点は5Forces分析

リーンキャンバスにおける競合考察は、課題の代替品や優位性を埋める際に、ある程度考える項目です。ただ、競合だけではなくステークホルダーや台頭勢力など、ビジネスに影響を及ぼす各要因があり、新規参入の難易度や売上利益の立てやすさといった業界特有の構造も存在しています。

イノベーションとは、既存の暗黙知を疑うところからスタートすることでもあります。そのため、マーケットで闘うためには、現在の業界構造を理解することが重要です。『自分たちの競合は誰なのか?』『その業界の収益構造はどうなっているのか?』『勝負しやすい業界なのか?』といった業界構造を、5つの観点から考察する5Forcesというフレームワークを活用することをお勧めします。

「モノ」から「コト」に変化している今だからこそリーンキャンバスを

リーンキャンバスを作成した後は、外に飛び出してアイディアを検証しましょう。フレームワークで整理していると『この項目は本当に正しいのか?』と不安になることがあります。しかし、仮説が正しいかどうかは誰にも分かりません。検証を始めなければ間違いにも気付けないので、勇気を持って外に出ましょう!フレームワークはアウトプットを作成してからがスタートです!

仮説と検証は非常に重要です。特に、現在のビジネスでは「モノ」から「コト」へ、プロダクト販売からサービス提供型に必然的にシフトしています。商品を提供したら終わりという関係ではなく、継続して顧客と関わりながら価値を提供し続けなければなりません。ビジネスに終わりはなく、スピード感を持って常に新しいチャレンジをし続けることが必要です。

リーンキャンバスは、アイディア整理・可視化→検証→学びといった挑戦の数を増やし、サイクルを高速化するための一助になるツールです。フレームワークは作っておわりではなく、作ってからがスタートという原則を押さえて活用してみてください。

 

<著者プロフィール>

今井 雄大

ハードウェア設計会社エンジニアからWEBスタートアップ企業でマーケティング・セールス全般を経て、ソフトウェア開発会社の事業責任者として新規プロジェクトを進める。2018年10月にビジネスフレームワークを利用できるWEBサービスBizMakeをローンチ。2020年4月からbridgeに参画。「音楽やる感じで仕事する」が世界観のパラレルワーカー。仕事のほとんどはサウナですませる。

 

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