TOPICS

blog

新規事業を成功へ導く0→1フェーズにおけるデザイナーの役割とは【前編】

新規事業を成功へ導く0→1フェーズにおけるデザイナーの役割とは【前編】

大手企業の新規事業開発を中心に支援を続けてきたbridgeが「事業と組織」をテーマに、時にゲストをお招きしながら、bridgeメンバーで自由にディスカッションを繰り広げる「新規事業の自走化」シリーズ。

第7回目の今回は、bridgeのメンバーでUI/UXデザイナーである藤井 正雄が、プロジェクトデザイナー大長 伸行と対談します。過去の事例を振り返りながら、新規事業の0→1フェーズにおいて、なぜ「デザイナー」の役割が重要になるのかを紐解きます。

0→1フェーズでデザイナースキルが活かされる気付き

撮影場所:WeWork 新宿

藤井 正雄(以下、藤井):私は現在、UXデザインの会社「ニューマルジャパン」で活動しています。自社製品を使って新しいサービスをこれから作りたい企業さま向けにUX・サービスデザインを支援しています。主には新規事業やスタートアップなど、いわゆる0→1フェーズのお客様が多いです。そういった方々に対して最初のプロトタイプやプロダクトを作っていくところの伴走をしながら、サービスとしてのかたちを作ってくことをお手伝いしています。

大長 伸行(以下、大長):もともと藤井さんが、ポートランド発のデザインファーム「Ziba Design」にいたときに一緒に仕事させてもらったことがきっかけで。その後、大手商社発ベンチャースタジオに行かれたと思うんですけど、そこではどんな仕事をしていたんですか?

藤井:まだゼロにもなっていないような”事業の種”から、事業を一緒に作っていくのが私達の役割でした。私はデザイナーなので、主にプロダクトを形にしていくフェーズから関わることを考えていたのですが、プロダクトの価値・対象者も決まっていない段階から伴走しました。そのフェーズでは、データもなければお客さんもそのプロダクトを使ったことがないんですよね。お客さんから定性的なデータを集めながら「どこに本当の価値があるか」ということを検証しながら仮説を立てて、反応を見て、プロダクトの方向を変えていくことが求められるんです。通常だったらプロダクトマネージャー、データサイエンティストなどのビジネス分野の人がやることが多いですが、これはまさにデザイナースキルが活かされるところだと思ったんです。デザイナーが0→1フェーズのインキュベーションから入って、自らもその仕組みに乗ってリードしていくということを経験しました。

大長:bridgeが支援させてもらっている企業は、ボトムアップ型で、社内での提案が採択されたら専門部署に移動していくケースが多いですが、多くの企業ではそこにデザイナーが入ることはないんですよね。今回、なぜそこのベンチャースタジオでは早い段階からデザイナーが入ることになったんでしょうか。

藤井:デザイン思考にのっとった組織づくりがされていたというのが大きな理由かもしれません。かなりユニークだと思います。ビジネスシンキングとデザインシンキングが噛み合わないシーンはたくさんあったんですけど、そのあたりはチューニングしながらやっていきました。

ただ、この2つは非常に相性がいいなと思っていて。ビジネスシンキングとデザインシンキングは見ているポイントがそれぞれ違うんですよね。デザインシンキングが、課題に着目し検証過程を通じて、課題の解像度を上げたり再解釈しながら、課題を解決できるソリューションを構築する一方で、ビジネスシンキングは、顧客や市場に着目し、マーケットの構築やドミナント戦略を構築します。同じ問題に対して取り組んでいたら、2つの視点から解像度を高められるので、相性がいいんです。

大長:事業アイデア・コンセプトをビジネス仮説検証に持ち込まれたときに、デザイナーとチームを組んで仮説検証を進めていく感じなんですね。

藤井:そうですね。一番最初のコアメンバーは2, 3人です。かなりデザイナーが中心的な立場になっていて、プロダクトオーナーの右腕のような、一般的なプロダクトマネージャーに近い立ち位置です。

一般的なデザイナーの職務も行いつつ、プロジェクト自体も前に進める役割を担っています。

最初にチームで仮説を作って、このターゲットはこういうことに困ってるよね、じゃあこういうことがソリューションとして成り立つんじゃないかっていうことをまず絵にする。大概の場合は世の中にないものを作り出そうとする場合が多いので、例えばキービジュアルやユーザーが使っているシーンなど、一旦その仮説を形にした方がいいです。

デザイナーの0→1における役割と進め方

大長:2024年1月に、bridgeが300人の新規事業担当者にアンケートを取りました。そのときの有意差として、価値検証に取り組んでいる組織は新規事業がうまくいっていて、課題の検証までしかできていないチームは新規事業の成功をあまり実感できていませんでした。今後、やはり「価値検証」が重要になってくると思うんです。bridgeがお手伝いしている中でも、課題はわかっていてもソリューションを提案するといらないと言われたり、ユーザーへの見せ方が弱いという課題があったりして。

藤井:プロトタイプが足りていないということを、まず意識できているのはすごいです。進んでいますね。

大長:3年前にアンケートを取ったときは、課題があるかどうかの検証活動もあまりできていないチームが多かったので、たしかに進んでいると思います。課題を捉えることはできていても、自分たちのアイデアが受け入れられるかについては、まだ組織の中でやり方がない。僕らもそれは実感していて。

チームにデザイナーを招き入れて活動する企業は少ないし、まだデザイナーが必要だという意識がない。だからミニマムになっていくと、デザイナーが入るシーンが限定的になってしまいます。

0→1を創出していく過程のどんなシーンでデザイナーが必要なのかを改めて整理していきたいです。藤井さんがこれまで行ってきた活動から、デザイナーの0→1フェーズにおける役割ってなんだと思いますか?

藤井:2つあって、1つは典型的なデザイナーの職務である「かたちにする」ということです。議論している内容や考えていることをかたちにしていくというところは、どのフェーズでもデザイナーが価値を発揮できる部分かなと思います。

もう1つはソリューションを出す過程です。課題は結構どのプロジェクトでも明確になっているんですよね。ただ、その課題の解像度が低かったり、ソリューションには踏み込めていない場合が多くて。そこで課題の真因を見つけて「ユーザーに価値が伝わる見せ方」をするのがデザイナーの役割なんじゃないかと思います。

実際のプロジェクトでも、課題に対するソリューションって無限にあるじゃないですか。ユーザーが言っていた課題に対するソリューションを持っていくんですけど、最初のほうは大体「これじゃない」って言われるんですよね。ユーザーは、思っていることを形にすることで、初めて「これじゃない」っていう判断ができるんです。だから、ソリューションを磨くためには何度も形にして修正していくことが大切なんです。

仮説は間違っていることのほうが多いと思うので、その仮説検証のプロセスを素早く回していくことが大切ですね。可視化しながら、この人の本音ってなんだろう、ということを洞察してインタビューするところをクイックに回せるのがデザイナーかなと思っています。

大長:なるほど、それは面白いですね。早く形にする、可視化するということって、言われたらたしかにそうだと思うんですけど、多くの現場ではそこにデザイナーは入っていないんですよね。ここにはどんなギャップがあるんでしょうか?

藤井:一般的に、デザインってもともとあるものを魅力的に装飾していくもので、価値がゼロの段階では意味がないって思われがちなんですよ。だから価値があるって確信が持てたときに、初めてデザイナーの出番がやってくる。マーケットフィットしたあとにブランドネーム・ロゴ・プロダクトデザインを一気に変えるケースも結構あるじゃないですか。ただ、作ろうとしているプロダクトや価値にもよりますが、作り方と伝え方の両方を同時並行で進めていくほうがフィットする場合もあるんですよね。

たとえば、既にライバルがたくさんいる場合だと、ソリューションの細かい部分や、どういうコンセプトでそのサービスを位置づけるのかというところが重要な差別化要素になってきます。あともう1つは、使い方が想像もできないような全く新しいサービスを生み出す場合です。この場合、他の事例を参考にすることができないので、始めからデザイナーが入って伝え方を作り上げたほうがマーケットフィットしやすいし、判断も自信を持ってできる。

大長:多くの場合は、何か1があるものをさらに10, 20にしていく時に起用する役割の人だと思っているけれど、0から1の時っていうのは 「もうちょっと固まってから声かけよう」と思い込んでいるのかもしれない。

藤井:みんな慎重に考えていることが多いなと思いますね。もっと気軽に依頼していただけたらいいなと思います。

 

【後編】の記事はこちら

Share

Recommended