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大手企業の新規事業開発を中心に支援を続けてきたbridgeが「事業と組織」をテーマに、時にゲストをお招きしながら、bridgeメンバーで自由にディスカッションを繰り広げる「新規事業の自走化」シリーズ。
第8回目の今回は、bridgeのメンバーでUI/UXデザイナーである藤井 正雄が、プロジェクトデザイナー大長 伸行と対談します。【前編】では、新規事業の0→1フェーズにおいて、なぜ「デザイナー」の役割が重要になるのかを紐解きました。後編では、デザイナーとチームとして活動していくにあたってポイントになることを議論します。
大長:企業の中でデザイン部門やデザイナーがいる会社、製造業などであると思いますが、その社内の人を巻き込むのも結構苦労するんですよ。そうすると、どんなデザイナーに来てもらえばいいでしょうか?起案者側として、どういうオファーをしてチームになればいいでしょう?
藤井:デザイナーとしてのスキルで言うと、あまり自分の表現に対してのこだわりがない、 アーティスト気質じゃない人の方が向いていると思います。プロダクトマネージャー的要素も必要なので、新規事業でなくとも多様な種類のビジネスを、マネージメントに近い立場で経験がある方がいいかなと。始めからデザイナー一筋ですという人よりは、ビジネス畑からデザイナーになった、自分でも事業をやってます、という人が良さそうです。
私自身が事業をやっているのもそこに理由があります。事業をやると、企業の中でのインハウスデザイナーだと扱わないような範囲の職務も出てきます。例えばECサイトを作るとなると、ECサイトのカスタマーサポートはどうするかみたいな話も出てきますし、このプロダクトをどこまで初期段階で作り込むかとか、サービスをいつから整えるかとか、自分たちで事業運営をやりながら価値検証をすると、その辺りの勘どころがつくなと。
大長:社内の中で声をかけて仲間に入れようとする時は、ビジネスからデザインに越境した人、エンジニアとデザイナーを掛け持ってる人、プロダクトをマネジメントした経験がある人が向いていそうですね。
藤井:そうですね。デザイナーが関わることのメリットとして、最終形態とは程遠いものであっても、すぐに消費者が体験できるものをリリースできるというのは大きいと思います。
私が手掛けているお茶の試飲・サブスク「Nice Tea Meet You」の例を話すと、当初取り組んでいた課題は、お茶って大体80グラム程度で販売されているから、旅先で買って帰ってきたら飲み切るのに1年くらいかかって結構辛いなというところがあり、そこからオンラインで試飲できるサービスをリリースしたんです。最初はユーザー獲得に苦労したんですが、自分たちでは予想していなかった層から結構購入されていて、その1つがギフト需要で、もう1つが自分で選びたくないからオススメしてほしいという声でした。
我々がサービスをリリースする前は、一種類のものを長い時間かけて飲むという飲み方だったんですけど、それを小分けにすることで色々な種類のものをちょっとずつ飲むことが可能になりました。そこからユーザーが発展して、「その時期にあったおすすめのお茶が届くと嬉しい」と言ってくれたんです。それを聞いてすぐにサービスをピボットし、サブスクプランを出しまして、今も現在進行系で変えているところです。
リリースすることに対してすごく慎重になる方が多いのですが、早く出して早くユーザーが体験できるものにすることで、スピーディに発展していくやり方もあると思います。
大長:社内で声をかけてチームに入ってもらおうとするときは、プロダクトマネジメントの経験がある人の方が向いてるということですね。デザイナーに依頼する時は、どんな関わり方を期待してアサインすればいいでしょうか?やもするとデザインの部分だけを頼んでしまいそうですが、本当はもっと守備範囲が広いわけじゃないですか。
藤井:そうですね。デザインする対象や仕様、要件が決まったかたちで依頼されることがありますが、むしろ無いほうがいいと思います。たしかに大企業だと縦割りで職務ごとの組織があって、デザイナーのなかにも上から降りてくる要件に従ってデザインすることが自分のプロフェッショナルだというマインドを持っている方もいるので、そこを変えていくのは難しいのかもしれないですね。しかし、最近は企業内や大学などの教育でも、風向きが変わってきているような気がします。
大長:避けたいオファーや、やりづらいケースはありますか?
藤井:オーダーの段階で、課題が明確じゃなかったり、全く課題発見ができていない状態は難しいかなと思います。いきなりソリューションを考え始めたり、ソリューションのかっこよさで意思決定されてしまうケースです。
大長:ビジネスサイドでは、ステップバックがきちんとできている方がいいですね。
藤井:逆に、デザインと相性がいいなと思うプロジェクトもあるんですよね。これ、デザインですごくドライブできそう!みたいな。「プロダクトの価値」と「デザイン」って、「掛け算」みたいなもので。足し算じゃなく、掛け算です。プロダクトの価値が1だと、デザインだけ作り込んでマックス5だとしても、5にしかならない。プロダクトの価値が5だったら、5×5=25になるので、だいぶ差がつきます。
大長:デザインと相性がいいなと思うプロジェクトは、どうやって見極めていますか?
藤井:プロダクトやサービスが全く新しい、今までになかったものを作ろうとしている場合や、 明確な意味的なイノベーションを起こそうとしている場合です。よくある事例で、ろうそくって昔は照明を明るくする機能として使われていましたが、今は意味が変わって、その場の雰囲気を作り上げるような使い方になったように、既存プロダクトでも意味を変えようとしているプロジェクトに関しては、デザインとの相性がすごくいいです。
大長:なるほど。逆に全く意味性も変わらないし、そのプロダクトのコアがビジネスモデルだったり技術だったりする場合は、0→1フェーズでデザインができていなくともマーケットフィットできちゃいますね。
藤井:グッドデザインの事例なんですけど、電動キックボードシェア/シェアサイクルのLUUP(ループ)は、コロナ禍に色々と仕込んで今花開き始めていますが、これはすごくデザインとの組み合わせがいい事業だなと思っています。
まず、LUUPは「自社プロダクト」として作っているんですよね。 キックボードってまだ日本だとあまりなかったので、新しい乗り物というジャンルで見られたはずです。このように象徴的にデザインせず、もし既存のどこかの自転車を借りてきて普通のシェアリングサービスとして始めてたら、ここまでマーケットフィットせずに終わり、エンティティ(実体)が埋もれちゃってたと思います。
次に、プロダクトの使い方ですね。乗るとわかるのですが、かなり直感的なんです。学習コストがほとんどかかりません。最初は心理的バリアがあっても、1回使い始めるとすごく楽なんです。そこのインターフェイスという意味でのデザインは、初期からブランド名やブランドカラーが変わっていないので、0→1の段階からキーファクターになります。
大長:体験価値のデザインをしているんですね。象徴的な乗り物自体は始めから自社のものとして作ってあることと、 乗った瞬間直感的に動ける体験のデザインをしたことが、受け入れられた理由だと。
藤井:そこがセットである必要がありますね。スムーズに操作できるユーザビリティ・体験の設計と、新しさ、 好奇心をくすぐるブランディング、事業のコアや技術などが、うまく噛み合って初めから併走してる状態が理想です。
大長:ところで現在、bridgeとニューマルジャパンがパートナーシップを締結し、新規事業の0→1におけるソリューション検証で必要とされるあらゆるデザインをワンストップでトータルサポートするサービス「Hop On Design」を提供しています。このHop On Designのネーミングにこめた想いを教えていただけますか?
藤井:どんなフェーズでも、どんな困りごとでもいいので、自分の新しく始めようとしている新規事業に自信が持てない・確信が持てない時に、気軽に頼っていただければと。hop on=飛び乗る、気軽にという意味です。
大長:具体的に、どのようなことを実施していきますか?
藤井:デザインが助けられるところって、0→1のフェーズでたくさんあるんですけど、たくさんあるが故に、最初はヒアリングから行い、その事業の特性を生かした上で、オーダーメイドで作っていきます。
大長:固定のサービスというよりは、困り事の観点がテーマによって、その人によっては全然違うし、デザインの使いどころが違うってことですよね。
藤井:はい。ぜひ、気軽に頼ってください!