CASE STUDY

事業開発

ホーユー:新規事業創出プログラム「コノユビトマレ」

ホーユー:新規事業創出プログラム「コノユビトマレ」

2024.01.26

課題

基幹事業(ヘアカラー)に続く新しい事業を社員起点で作っていきたい

bridgeがしたこと

プログラムの設計と運営、採択されたチームの仮説検証活動の伴走

成果

3つの事業案が選考を通過。専任化し、市場検証へ。

 

ホーユー株式会社 経営企画室 経営企画課 下込悠矢さん(写真・左)/福本雄さん(写真・右)/横田卓也さん(写真・右上)

2023年に創立100周年を迎えた日本の大手化粧品メーカー、ホーユー株式会社(以下、ホーユー)。「COLOR YOUR HEART 心に彩りを」のコーポレートスローガンを掲げ、海外拠点9ヶ国を含めた世界70ヶ国以上へ製品を届けています。

ホーユーでは2023年1月より、持続的な成長を果たすことを目的とした、新規事業創出プログラム「コノユビトマレ」が実施され、半年後には3つの事業案が事業化審査を通過しました。

bridgeが期間中に支援したのは、プログラムの設計と運営、採択されたチームの仮説検証活動における総合的なサポートです。

今回のインタビューでは、経営企画室 経営企画課の下込さん、福本さん、横田さんの3名に、新規事業創出プログラムの全体像をご紹介いただくと共に、事務局で実施した具体的な支援内容などについて伺いました。

社長の所信表明から始まった、新規事業創出の取り組み

─Q まずは、今回の取り組みの背景を教えてください。

福本雄さん(以下、福本):2022年に佐々木が5代目の社長として就任した際、社内に向けた所信表明がありました。3つの既存事業(コンシューマー事業、プロフェッショナル事業、海外事業に加え、新規事業を立ち上げるとの話も表明内容の1つでした。

それからしばらくして、社長から直接指示のもと、経営企画課の旗振りによるプロジェクトが立ち上がったというわけです。

─Q それは、経営層の理解がすでにある状態でスタートしたのでしょうか?

福本:我々も社長からの拝命ということで、スムーズに経営層からの承認が下りると思っていたのですが、実際はなかなか厳しい反応でした。

時系列に沿って説明すると、2022年4月にプロジェクトが立ち上がり、3ヶ月後に開かれる役員合宿の中で企画を提案することが決まりました。短い準備期間の中で、まず着手したのが過去の振り返りです。

実は、社員の手上げ式による新規事業創出の試みは過去にも何度かあったんです。ところが今も継続しているものがないのが実状。そこで、原因となる課題を抽出し、同じ轍を踏まぬよう「十の掟」として要点を整理するところからスタートしました。

その後、他社の事例などを参考にしながら、新規事業創出プログラム「コノユビトマレ」を企画にまとめ、役員合宿でプレゼンをしたわけです。ところが、既存部門のリソースが新規事業に回されてしまうことに懸念があるとのことで、すぐにOKは出ませんでした。

そこで我々は役員合宿の翌々日には、既存事業への影響を最小限にすることを前提とした修正案を経営企画室で検討し、どうにか承認につなげた。そんな背景があったんです。

社長が書類審査を担当。事業化審査を経て、専任部署&予算承認も

─Q 「コノユビトマレ」という名前が素敵ですね。ネーミングの際には、どのような思いを込めたのでしょうか?

横田卓也さん(以下、横田):「この指」というのは、代表の佐々木の指、事務局の指、参加者の指をそれぞれ表したネーミングになっています。「この指とまれ」と社内に声をかけて、協力者を募ることで、未来が紡がれていくという意味も込めました。

ロゴマークにも3本の指が描かれていて、クリエイティブも、遊び心が伝わるようなポップなデザインに。社内からもとても好評です。

─Q 事務局のメンバーや社長からは、実際にどんな感想をもらいましたか?

横田:経営企画室の室長からは絶賛されて、社長からも褒められたのを覚えています。7月の役員合宿の際も経営層からの評判がよく、大成功のネーミングでした。

─Q プログラムの中でも「イキイキステージ」「ワクワクステージ」などの表現が使われていたのが印象的でした。

福本:イキイキとワクワク、どちらの表現も社長の所信表明の際に使われていた言葉です。ホーユーの働き方として「社内だけでなくお客様を含めたあらゆるステークホルダーに対して、イキイキ・ワクワクさせていきたい」という願いが込められているんです。

横田:ホーユーの新しい文化として、社内にも少しずつ浸透してきている表現なので、新規事業創出プログラムの中でも積極的に使いたいと思いました。応募から事業化審査までの工程を「イキイキステージ」、実証実験フェーズ以降を「ワクワクステージ」としています。

福本:コンセプトにもこだわりつつ、社長の新規事業にかける本気度もプログラムの中で体現したいと考えていたので、コノユビトマレでは、書類審査の段階から社長が積極的に関わる設計にしています。

社内起業家をホーユーから誕生させ、次の事業の柱へとつなげるというミッションを我々は担っていますので、審査のプロセスに社長が入ってもらうことは重要だと考えました。少し無理なお願いかとも思ったのですが、社長からは「書類審査、喜んで担当するよ」と快諾していただけました。

─Q 事務局運営で、大切にしたポイントはどこですか?

横田:「十の掟」としてポイントを整理したうち、特に意識したのは「手を挙げてくれた人をしっかりサポートすること」「出口戦略を設計すること」の2点です。

過去の新規事業創出の取り組みで課題だと感じたのが、単年の活動で終わってしまっていたことでした。事務局としての反省を次回に活かせないだけでなく、参加者本人も活動を通して学習したことを発揮する機会が得られません。

せっかく挑戦をしてフィードバックをもらえたのなら、審査に落ちても次回挑戦できる土壌があったほうがいいですよね。

そこで、コノユビトマレは最低でも3年は継続させることを事前に定めました。手を挙げた人が割を食ってしまう場面も正直これまでありましたので、参加者の活動を人事考課に含む制度も新たに取り入れました。

福本:出口戦略も非常に重要だと考えています。どうしても社内提案制度などの活動は「提案」がゴールになりがちだと思うのですが、実際には入口であり、ゴールはもっと先にあるはずです。

コノユビトマレでは、事業化審査を経て継続判断がされた事業案に対しては、専任の部署への異動が約束され、予算も付けて取り組めるよう整備をしました。

これにより、手を挙げた参加者は泥船に乗るような事態を避けられますし、プログラムを通して得られた知見を事務局は次につなげられるようになります。この仕組みを導入したことは、1期目を運営するにあたって大きなポイントでしたね。

経営層の期待を大きく超え、3案が最終ピッチを通過

─Q 2023年10月に事業化審査を終え、1期目の区切りが付きました。振り返ってみて、どのような成果を感じていますか?

下込悠矢さん(以下、下込):一番の成果は、3つの事業案が審査を通過したことです。既存部門のリソースを新規事業に回すことに懸念があったため、事業化審査の通過上限は「2案」とされていました。それが3案通過したということは、それだけ社内の人材やシーズに対して大きな可能性を感じてもらえたという証拠です。

個人的に振り返ってみても、事業化審査が行われた最終ピッチの瞬間を思い出すと、本当に全員の顔がイキイキしていて、仕事に対して本当にワクワクできたと思っています。

福本:私も同感で、2023年10月26日・27日の2日間で行われた最終ピッチ・審査会の様子は、一生忘れないと思います。

我々は、議題を経営会議に挙げたとしても、経営層から褒めてもらえることは少ないのですが(苦笑)、あの日は社長や役員を含めた全員が大絶賛でした。プログラム参加者たちのピッチが、本当に素晴らしかったです。

─Q 下込さんは、起案者のサポートも積極的にされていたと思います。そのように積極的に支援されていた理由は何かあるのですか?

下込:1つはその案に対してのフィードバックが厳しく、社内では「この案を通すのは無理だろう」という空気があったことです。それがとても悔しかったんですね。

なぜ悔しかったのかというと、それが2つめの理由でもあるのですが、起案者がとても魅力的な社員だったんです。まっすぐで正直、どれだけ課題が山積みでも、とてつもない行動力で次々と解決していくんです。

こんなに頑張っているのに評価されないなんて、という思いが私の中で生まれ、「必ずや案を通す!」と意気込んでいました。やや介入しすぎたかもしれないと反省はあるのですが、どうにか3案目の事業化審査通過へとつなげることができました。

 

─Q 中間審査以降で行ったプレピッチでのフィードバックを境に、参加者の皆さんの目の色が変わった印象もありました。事務局として変化は感じていましたか?

福本:率直に言って、プレピッチの出来は物足りないものがありました。いつも温厚で優しいbridgeの大長さんも、その時ばかりは「これでは学園祭ですね」と辛口の評価だったのを覚えています。

プレピッチの後に、参加者の様子を見に行ったら、みんなすごく落ち込んでいました。でも、そこからの巻き返しが本当にすごくて。
最終的に、事業化審査でのピッチではとても素晴らしい発表をしてくれました。外部からの指摘、率直な意見もまた、参加者に火をつける大きな要因になるのだと思います。

─Q 通過した3案のうち、1案は5年前に一度却下されている事業案だったのも印象的でした。

福本:我々としても、非常に大きな成果だったと捉えています。5年前と何が違ったのかというと、やはり「Why now?」の部分がハマったのだと思います。

外部環境に目を向けた時に、やはり今回の提案内容であっても、5年前では審査の通過は難しかったはずです。社内に眠っていたシーズが、まずは蕾(つぼみ)の段階を迎えたことは成果といえますね。

─Q 2期目の実施に向けて、浮き彫りになった課題はありましたか?

下込:社内における、新規事業創出に向けての意識・風土醸成については、まだまだ課題があると私自身は感じています。ホーユーの気質として、石橋を叩いて渡るような慎重さがあるのですが、新規事業開発を進める上では「まずやってみて、ダメなら修正する」といった考え方が大切になると考えています。

書類審査から社長が関わる点やプログラムの活動が人事考課に反映される点など、良い面も多くありますので、今後は「まずは挑戦する」という行動面の変化を促していきたいです。

横田:社内起業を促進する上で、ホーユーとしての強みをもっと活かせる活動ができたらと私は考えています。

既存事業とカニバリゼーションを起こしてしまう懸念から、新規事業はまったく新しい領域で創出すべきではと考えていた時期もありますが、社内のリソースを十分に活用できなければ、スタートアップにも遅れをとってしまう可能性があります。強みの言語化には難しさも感じますが、今後の大きなテーマになってくるとも考えています。

新規事業の「継続判断」を見据え、体制の強化へ

─Q 最後に、新規事業創出プログラム「コノユビトマレ」に挑戦する参加者に対して、これからどのような支援を考えているのか、展望を聞かせてください。

下込:これから2期目を迎えるにあたり、より参加者のアイデアの質や行動力を高める支援をしたいと思っています。質の高い事業案を通過させるためにも、前回とは異なる角度の取り組みにも着手したいですね。

福本:市場検証に必要な、社内的な仕組み構築に力を入れたいと考えています。その先には、実際に売上が立ち始める事業も出るわけなので、会計や物流といった面からも事務局のバックアップ体制は必要です。

また、1期目を終えてみて、既存事業の領域と近い「ものづくり」に関する事業案が多かったことにも気づきました。社内の研究開発リソースを借りることができなければ、起案者のリソースだけでは限界があるため、そのあたりも今後の課題です。

横田:私からは、オープンなプログラムにすることで、「挑戦の風土づくり」を心掛けることを社内に提案したいです。参加者だけのお祭りにするのはもったいないので、応募者はもちろん、それを応援する社員という枠組みも作りながら、組織や風土の醸成にもつなげたいです。

具体的には今後、bridgeさんの力をお借りしながら広報にも力を入れる予定です。試行錯誤にはなると思いますが、全社を盛り上げる活動へ発展させることを念頭に、引き続きプログラムのブラッシュアップに努めていきたいと思っています。その先には、社長が所信表明で掲げた、4本目の事業の柱が育つ未来が待っているはずです。

──本日は貴重なお時間をありがとうございました。

取材協力:株式会社ソレナ

 

 

 

 

 

 

 

 

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