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たった1人のニーズが秘める大きな市場の可能性

新事業/新商品を開発する際、

・どのようにリサーチを行えば良いのか?
・誰に、どのくらい、何をインタビューすれば良いのか?
・インサイト(イノベーションに繋がる洞察)を発見するにはどうすれば良いのか?

といった質問を頻繁にいただきます。

新商品開発、マーケティングに臨む際、リサーチの手法として市場規模や競合調査が一般的ですが、いくら量的調査を重ねても、それらはこれまでほど重要なリサーチデータにはならなくなってきています。

なぜなら、様々な商品が飽和し、消費者のニーズがめまぐるしく変化している現代において、すでにあるデータから未だ存在しない価値を創出することは容易ではないからです。

そこで非常に有用なユーザーリサーチ/分析、アイデア創発手法となるのが、今回ご紹介する、たった1人もしくはごく少数の顧客の洞察から潜在ニーズを発見し、これを起点としたソリューションアイデア創出を行う顧客中心デザインです。

定量分析と定性分析の違いを理解する

例えば、アンケートや競合調査は定量分析、顧客へのインタビューや行動観察は定性分析に位置付けられます。

新事業開発に乗り出す際に、多くの場合、

・とにかくたくさんの人からアンケートを取る
・できるだけ多くの競合の情報を調査する
・既存市場の動向をデスクリサーチで調べる

といったことに着手し、広く浅い情報収集に翻弄するケースが多く見受けられます。
しかし、これらに取り組んで、インサイト(イノベーションに繋がる洞察)を発見できるケースは稀です。
これらの調査は不特定多数の人のニーズの最大公約数でしかなく、ありきたりな、またはある程度予想の範疇の結果しか得られないことが多いからです。

アンケートや膨大な市場リサーチなど、従来からの事業開発やマーケティングの定番である定量分析は「巨大集団の細分化」であるのに対し、少数の顧客を対象とした定性分析では、「微細集団の最大化」という逆のアプローチを取ります。

もちろん、アイデアの方向性のアタリをつけるうえで、定量的な調査は意味をなしますが、100人の最大公約数よりも、たった1人の強烈な潜在ニーズを発見することがイノベーションの大きな一歩になるのです。

【事例】”たった1人の女性” を追求したスープストック・トーキョーの成功事例

昨今国内外で事業拡大しているスープ専門店「スープストック・トーキョー」では、ペルソナによってユーザーモデルを描き、成功したと言われています。

事業開発当初から、都内私鉄沿線某駅エリアに住む健康志向な30代のキャリアウーマン「秋野つゆ」という人物を空想上で描き、徹底的に人格化。
アイデアの着想から事業化まで一貫して彼女のためのサービス開発に徹しました。
結果として、想定通りペルソナに似通った顧客属性に支持されるサービスになっただけではなく、「健康志向」「ダイエット」というニーズを持った多くの層の顧客がファンとなったのです。

たった1人のためのサービス開発から大きなマーケットを得た、まさに「微細集団の最大化」の事例です。

エクストリームユーザーを見つけよ

開発する商品/サービスを最も多く購入してくれる期待のある対象顧客層を「ボリュームゾーン」と言いますが、無視できないのが ”エクストリームユーザー” です。

例えば、「新しい包丁を開発する」というテーマで新商品を開発するにあたり、以下のような対象があったとします。

①頻繁に料理をする主婦
②定年退職後に料理に挑戦し始めたおじいちゃん
③機能・品質に一切妥協を許さないプロの料理人

すでにお分かりいただけるかもしれませんが、この場合のボリュームゾーンは、①頻繁に料理をする主婦
に設定すると考えられます。

そこで、料理を頻繁にする主婦にインタビューをして包丁や料理に関連する困りごとをインタビューするかもしれません。(これは間違いではありません。)

一方でこの場合、
②「定年退職後に料理に挑戦し始めたおじいちゃん」
③「機能に一切妥協を許さないプロの料理人」
は、エクストリームユーザーと位置付けられます。

なぜなら、その商品に著しく疎い、または著しくこだわっている対象者は得てして極端な課題を持っていることが多く、インタビューでの発言やオブザービング(行動観察)でみられた行動から、未解決の課題(ペイン)を発見する重要な要素を見出せることも多いのです。

ボリュームゾーン以外の属性層を対象としたリサーチもぜひ行ってみてください。

【事例】現場調査から明らかになった、ショベルカーの意外なニーズとは?

ある重機メーカーに、バケット(土をすくう部分)とアームの連結部が破損するというクレームが相次いだことを受け、担当者が現場調査を繰り返した結果、作業員がバケットの部分で杭を打ったり、岩石を叩き割るような使い方をしているシーンに遭遇。
実は、現場では「砂利や土を運搬する」というメーカーの当たり前の思惑は机上論でしかなく、実際に現場では、「叩く」「粉砕する」という手段に利用されていることが少なくないことが明らかになりました。
「メーカーの思惑通りに使うはず」というバイアスを排除し、ヒンジ(連結部)の剛性を強化することにより、現場のリアルなニーズに対応することができたと言います。

| 文脈的調査の意義 
あるひとりへの深い理解から得た重要なインサイト

インタビューに加えて有用なのが「コンテキスチュアル・インクワイアリ(文脈的調査)」です。
これは、「エスノグラフィー」「オブザービング」と呼ばれることもありますが、総じて、事業開発/商品開発のテーマに関わる顧客の生活や仕事の現場に同行し、様々な文脈から、インタビューだけでは拾えないイノベーションにつながる洞察を得ることを目的としたリサーチ手法です。
インタビューとセットで行うことで、良質なインサイト発見が期待できます。

ここで、私たちが支援した英国でのユーザーリサーチの例をご紹介したいと思います。

テーマ周辺の文脈から発見したインサイト

英国ロンドンにて、”水”をテーマとした新規事業開発の現地リサーチを行なった際に、運良く現地のお宅を訪問させていただく機会を得ることができました。

お宅に訪問し、雑談からの流れでインタビューを実施しながら、英国の家庭では頻繁に消費されている紅茶をご馳走になっている時、カップの淵に付着した黒い粉が目にとまりました。

実は英国では日本同様水道水を飲むことができる国ですが、日本の水は軟水であるのに対し、英国は高濃度の生石灰やマグネシウムを含む硬水。
軟水に慣れた日本人にとって、人によってはお腹を壊してしまうほどその性質は違います。
また、水分に含まれたこれらの含有物が毛穴に詰まったり、髪にダメージを与えたりすることもわかっていますが、現地の生活者はそれに慣れており、何ら違和感なく摂取したり、洗顔や洗髪をしています。

台所を見せてもらうと、このご家庭では、食器やシンクに付着した汚れを除去するためのグッズや工夫がこまめにされていることが見受けられました。
一方で、飲料水やシャワーには、硬水の害への対策がなされていないことにも気がつきました。

これらの観察から
「目に見える汚れには敏感だが、美容や健康の面での”浄水”の潜在ニーズがあるのではないか?」
という仮説にたどり着きました。

このご家庭の奥様は、整理整頓が徹底されていたり、2週間分の献立表や買い物リストを掲示するなど、非常にマメで神経質な側面が見られたものの、硬水が健康・美容に及ぼす悪影響は気にしておらず、

・一旦、美容・健康面での”浄水”の必要性に気づいたら、ヘビーユーザーになってくれるのではないか?
・他にも同じような人がたくさんいるのではないか?
・健康・美容面での浄水のニーズを訴求することにビジネスチャンスがあるのではないか?

という仮説に行き着いたのです。

この仮説のもとに、他のご家庭に対してもリサーチを行なったところ、ほぼ同様であることが確認でき、それらの主婦を対象とした浄水プロダクトアイデアのソリューション検証では、非常にポジティブなフィードバックを得ることもできました。

まさに、ネットや文献などの一次情報だけでは知り得ない、また、インタビューだけでも知り得ない価値のある一次情報を獲得できた事例です。
現場に足を運び、当事者の深い洞察から有用な仮説の手応えを得たと実感した体験でした。

|新事業開発の半分以上の時間はユーザーリサーチに使うべし!

新事業/新商品開発を行ううえで、多くの場合
①機会発見→②アイデア創造→③アイデア仮説検証→④ビジネスモデルデザイン
というステップを辿りますが、もっとも重要なのは機会発見のフェーズにおけるユーザーリサーチです。

前述のイギリスでの活動は2週間でしたが、出発前のデスクリサーチでリサーチ範囲を絞り、現地では徹底的にインタビューや現場調査を行い、結果として有益な一次情報を得ることができました。

つい、市場規模やビジネスモデルといった形式にとらわれてしまいがちですが、そもそもの課題設定が間違っていれば、その先は穴の空いたコップに水を注ぐような無駄な活動になってしまいます。

この機会にぜひ、ユーザーリサーチの重要性を再認識いただき、より顧客起点の優れた新事業/新商品開発に取り組んでみてください。

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