CASE STUDY

事業開発

地域の事業創発プログラム「浜松イノベーションチャレンジ」を共同提供(後編)

2022.02.18

プログラムを下支えした事務局メンバー

bridgeは、静岡県浜松市後援の事業創発プログラム「浜松イノベーションチャレンジ」を、株式会社エフ・シー・シーと共に、4ヶ月にわたり提供しました。

参加チームは、エフ・シー・シー(2チーム)、ユタカ技研、ローランド ディー.ジー.(子会社DGSHAPE)、浜松いわた信用金庫、静岡大学の4企業+1大学の6チーム。後編ではbridgeを含め、プログラムを支えた各社の事務局メンバーをインタビューします。

どのような想いでプログラムに参加し、最後まで走り抜くうえでどのような課題や葛藤、乗り越えたものがあったのか。今後の構想も含めてお話を伺いました。

事務局メンバー

(上写真の左から順に)

エフ・シー・シー 青島さん
エフ・シー・シー 山本さん
ローランド ディー.ジー.(子会社DGSHAPE)甲斐さん
ユタカ技研 伊藤さん
浜松いわた信用金庫(FUSE)渡邊さん
静岡大学 遠藤先生
bridge 鈴木

(以下、本文中は敬称略で記載)

各社のプログラム参加理由について

最初の振り返りは「なぜ事務局として今回手をあげて参加したのか?」という質問から始まりました。国内でもさまざまなイノベーションプログラムが増えるなか、改めて参加の意義と各社の課題を再確認していきます。

青島:今回私たちエフ・シー・シーは、企画・運営から始まり、プログラム期間中はファシリテーションなどを担当しました。「浜松イノベーションチャレンジ」を立ち上げた背景には、私自身が2年前に参加した外部のイノベーションプログラム(bridge提供プログラム)での経験が関係しています。

弊社の主力製品である二輪・四輪用のクラッチは、EV化によって市場の縮小が見込まれています。企業として社会に求められる価値を生み出し続けるためにも新規事業開発が必要になっており、その一つの手法としてイノベーションプログラムがあると考えております。

私は2年前のイノベーションプログラムに参加したことで人生が大きく変わりました。地元の浜松でもそのような機会を提供したいという想いがあり、今回のプログラムを企画しました。

山本:同じく、エフ・シー・シーの山本です。青島のサポートという立場での参加になります。今回は運営側の立場ということで、また別の角度から得られるものがあるのではと楽しみに参加しました。

甲斐デジタルプリンティングやデンタルおよび3Dのものづくりを扱うローランド ディー.ジー.です。私は社内事務局とプログラムの推進サポートの立場で参加しました。新規事業開発は社内で私に与えられたミッションでもあるので、この機会をぜひ有意義なものにしたい考えがありました。私個人のテーマに「コラボレーション&イノベーション」を掲げており、今回の取り組みはまさにぴったりだと感じました。

伊藤:ユタカ技研営業部の伊藤です。弊社は自動車部品の排気システムやトルクコンバータなどを扱っています。化石燃料に由来する部品が多く、電動化の動きがあるなかで新規事業や新製品の開発の必要に迫られている現状があり参加しました。

渡邊:浜松いわた信用金庫です。今回の「浜松イノベーションチャレンジ」の開催拠点になった、『コ・スタートアップスペース&コミュニティ FUSE』の運営母体でもあります。

信用金庫という特性上、地域での営業が中心になります。5年ほど前から、今後の地域経済に対して危惧を抱くようになり、新たな事業創出に向けてさまざまな取り組みを進めてきました。今回は職員に「新規事業を作る経験をしてほしい」という狙いもあり参加しました。

遠藤:静岡大学で教員をしています。私は2016年頃からエフ・シー・シーさんも参加している『スタートアップウィークエンド浜松』と呼ばれるイベントにかれこれ10回関わってきました。今回のプログラムでは、学生の参加も企画趣旨だということで参加した経緯があります。

鈴木:bridgeの鈴木です。エフ・シー・シーさんとの共同提供ということで、企画・運営からワークショップのファシリテーションまで、プログラムの中核で支援をさせていただきました。bridgeは2021年1月に新拠点として「bridge東海」を開設しており、私自身も浜松に移住をしました。今回はその最初のお仕事ということになり、思い入れのあるプログラムになりました。今日は皆様、どうぞよろしくお願いします。

事業創発プログラムで得られたこと

では実際に、プログラムを通して得られた成果は何だったのか。新規事業開発という共通のキーワードを中心に各社から話を伺います。

青島:既存のクラッチのほかに、新たな新規事業案が2つ生まれたことが大きいと思います。プログラム内でも、次世代のカーブミラー「カーブミライト」が優秀賞を取ることができました。

エフ・シー・シーチームの、次世代のカーブミラー「カーブミライト」

またそのプロセスで、社員の成長も見られました。特にリーンスタートアップの考え方が身に付いたことで、既存業務の上司からも「仕事が早くなった」という声もありました。

運営側の目線では、bridgeさんとお互いのアイデアを提案し合いながら、何度も議論を重ねることができたのがよかったです。時間はかかりましたが、だからこそいいものができたのだと思っています。あともう一つ、トップ同士の交流が増えたことは参加企業の方々にとっても有意義だったと思います。お互いの会社を訪問し合ったり、工場見学をしたりといったアクションにもつながっています。

山本:社内的には、イントラネットを活用した社内広報の仕組みが浸透したきっかけになったと感じています。これまでは社内のメンバーを巻き込み、相談や協力をするという文化がありませんでした。今回をきっかけに、社内的な横のつながりも増えたように思います。

甲斐:会社全体とメンバーの個々人、それぞれ共通して「強み」を知ることができたと感じています。事業開発をする際も、自分たちはどういう存在で、自社にできることは何かという議論からまずスタートします。そこで必要になる「強み」は、比較することでしか認知ができないので、今回のようなプログラムで他社(他者)と交流できたのは大いに意義があることでした。

伊藤:プログラム内では「乳幼児の泣き声から親を解放する抱っこひも」というテーマの新アイデアが生まれ、最優秀賞をいただくこともできました。

ユタカ技研チーム。テーマは 「乳幼児の泣き声から親を解放する抱っこひも」

それ以外の部分では「資料作り」で大きな学びがありました。社内で作成するものはどうしても形式的で硬いものが多いのですが、bridgeさんの考え方やピッチで実際に使用する資料は視点が私たちのそれまでとはまったく異なるものでしたので、今後に向けて大きな学びになりました。

渡邊:他社さんのチームと一緒に意見交換をしたり、時にはお互いの進捗状況を確認し合いながら切磋琢磨できたのがよかったですね。それまで私たちは他社さんとの取り組み自体が少なかったため、想像以上の収穫を感じています。また、新規事業を作るための流れをbridgeさんに教えてもらえたので、参加メンバーにとっても深い学びがあったはずです。

遠藤:学生たちにとっては、皆さんと一緒に新規事業アイデアを考える取り組みができたこと自体が貴重な体験だったと思います。特に学生が驚いていたのが、最終ピッチに向けた各社の追い込みの様子です。当初のアイデアに縛られることなく、何度もピボットを繰り返して見事な事業案にまで磨き込んだ。大きな気づきが得られたと思います。

鈴木:今回参加してくださった各企業の皆様から、トータル6つの新規事業案が生まれたことがまず一番の成果だったと思います。各社、やる気に満ちた選抜メンバーが参加してくださったこともあり、熱量が高く、アウトプットの質も高かったと感じています。最終ピッチでは各社の社長や市長の前で発表できたことは意義のあることだったと思います。きっとその熱意は伝わり、次の展開に向けて動いていくはずです。

プログラムの反省点、今後の課題

一方で、今回の事業創発プログラムでは具体的にどのような課題や壁、反省点があったのでしょうか。次回開催なども想定に入れつつ、より成果に結びつく取り組みに向けての議論が交わされました。

青島:事務局としてもそうですが、プログラムに参加したメンバーも含めて時間の捻出に苦労し、集中できる環境をどう作るかという部分は試行錯誤がありました。また、プログラム期間中にも「もっとこうしたらどうか?」という要望も上がってくることもありました。そこについてはbridgeさんと相談しながら進められたので、こういう時に共同企画のメンバーを専門家としてお呼びすることの心強さは感じましたね。

山本:私も青島と同意見で、活動時間の確保は一番の課題だと感じました。ここについては会社と事前にしっかり認識をすり合わせることが大切ですし、言葉と態度で違いが生まれたとしても時間をかけて解決するしかないのかなと思っています。また、いくら挙手制による熱量のあるメンバーとはいえ、普段は職場が離れていたり、今回のプログラムで初顔合わせということもあります。Teamsの導入はしましたが、ITリテラシーの部分も関係するので、この課題とは今後も向き合う必要があるなと感じています。

プログラム期間中はコロナ禍のためオンラインも活用

甲斐:私自身の課題として、メンバーが考えた事業アイデアを応援したい気持ちはありますが、そうさせるための権限が私になく、さらにはその事業案の成功可否をジャッジできるだけの専門性もまだありません。そのあたりを今後は改善していきたいと考えています。

伊藤:メンバーからは「プライベートの時間も新規事業のことで頭をいっぱいにしなくてはいけないから大変だ」と少し愚痴をこぼされたりもしましたね(苦笑)。また弊社の場合は、メンバーが浜松と栃木のそれぞれにいたため距離的な問題がありましたが、そこは現代の若者らしくTeamsを使いこなしていたので、純粋にさすがだなと感じたところです。

渡邊:私たちはTeamsの運用でいきなりコケてしまったのが痛手でした。信用金庫なので、システム部を説得するのにも1ヶ月がかかってしまい、環境作りに苦労しました。あとは、社内に活動報告をしっかりできなかったことが悔やまれます。もっと上司や社内に対して「参加メンバーはこれだけ頑張ってるよ」と伝えるべきでしたが、そこがほったらかしになってしまい、結果、普段の業務量プラスアルファでプログラムに参加してもらう形になってしまったんです。

遠藤:一番の課題は、学生のモチベーションを上げることでしたね。特に中間ピッチの際には4人中1人しか来ないという事態になってしまい、その都度のイベントがどんな役割があり、なぜ重要なのかをしっかり伝える必要があると反省がありました。その解決策として「ゴール設定」の工夫を考えています。どうしてもゴールが「教員の私に見せる」というだけでは動機付けとしては弱いので、どこかの会社さんからお題をもらうなどの仕掛けをするのはどうかと思案しているところです。

鈴木:私が感じていた課題も共同運営者の青島さんと近いです。コロナ禍であっても、オンラインを活用していかにインタラクティブな環境を作れるか。そこにまだまだ工夫の余地があると感じましたし、せっかく地域企業の皆様、学生の皆様に参加していただいたのであれば、もっと共創の効果をオンライン上で生み出せたのではと振り返っています。

次回以降に向けた期待と今後の展望

最後に、今回の良かった点・反省点を踏まえたうえで、今後の事業創発プログラムへの活かし方について建設的な話し合いが行われました。特に課題に関しては、先ほどの「参加メンバー」としての反省点に加え、ここでは事務局としての改善策も話し合われました。

青島:企画・運営については、フィードバックを皆様からいただくかぎりは満足度の高いものだったかなと思います。しかし、アイデア創出の部分については強化の余地があると考えています。どうしても自社のリソースや持っている情報の中から事業案を出してしまいがちなところを、もっと世界の潮流なども踏まえ、情報や選択肢が十分にあるなかで自社の方向性や自らのやりたいことから事業案を検討できる仕組みを次回に実装できたらと思っています。

山本:私は今後の展望として、今回のような企画がなかったとしても新規事業が自然と生まれるような環境を生み出せたらと考えています。とはいえ、器がなければぼやけてしまうと思うので、そういう意味ではこのプログラムを長く継続し、日々の会話のなかで「次は参加しようかな」という環境作りを目指していければと思うところです。

甲斐:今回は各界の著名人をお呼びして話を聞かせてもらえる機会もあり、非常に有意義なものになったと思います。次回以降は「いい話だったね」で終わらせず、そこから各社チームが自社テーマを深掘りしていけるような取り組みができたらと思っています。また、事務局というよりも弊社の目標として、前段の話題にあった「時間の捻出」「集中できる環境」といった課題を解決できるソリューションを開発したいと思うようになりました。当社ミッションである「デジタル技術の活用で、より豊かな社会を実現する」を叶えることと直結していると考えるからです。

伊藤:私からは、もし次回があるのであれば、1回目の参加者が新たな参加者の先生になれる仕組みがあっても面白いかなと感じました。また、アイデアのレベルも新製品ではなく「新事業」といえるレベルのものを展開できたらと考えています。

渡邊:各チームにデザイナーを設けるのはどうか、というアイデアがあります。背景には、自社チームがプロトタイプを結局一度も作れなかったという課題を残してしまったからです。ほかは皆さんどこも作られていたと思うので、そこにテコ入れがしたいですね。もう一つは、チームをもっと増やせたらと考えています。女性チーム、エースチーム、役職定年を迎えたメンバー限定チーム、など変化があっても面白いかなと思うんです。

遠藤:私からは、フィードバックの内容をもっと辛口で刺激的なものにし、審査後の選択肢ももっと増やしてみてはどうかと提案したいです。今回はややお客様扱いされていた感じもあり、もっと崖に突き落とすような意見を率直に伝えてもらっても良かったように思います。また、ピッチを終えたあとは「①資金を出す ②自社で検討 ③却下」のどれかを審査員は選ぶ流れでしたが、ほとんどが「②自社で検討」になってしまい、少しつまらないなと。その点で何か工夫の余地があるような気がしています。

鈴木:ここまでいただいたフィードバックは、今後にぜひ活かしたいと思います。そのなかでも、アイデア出し時点での選択肢をもっと増やすための取り組みや、プログラムの体験を一過性のものにはせず、社内で継続的に醸成していけるようなコミュニケーションは今後も必要だと感じています。そして目指すのは、ここからグローバルに出ていくような事業やプランが生まれること。それまで、この灯(ともしび)を消さないような支援を続けていければと考えています。今日はどうもありがとうございました。

【メディア掲載情報】

・中日新聞 2021年9月3日 朝刊

『浜松から新事業創出、やらまいか! FCCなど4社社員と学生らがオンラインで初会合』

・日刊工業新聞 2021年10月18日

『エフ・シー・シーなど、オンラインで新事業創発支援 プログラム提供』

・中日新聞 2021年10月28日 朝刊

『FCCなど4社幹部、新事業実現へ助言 浜松チャレンジ中間報告』

・中日新聞 2021年12月18日 朝刊

『浜松・新事業チャレンジ最終審査 最優秀にユタカ技研』

・ニュースイッチ 2021年12月31日

『新産業創出の動きが活発化する浜松市、自動車用クラッチ手がける地元企業社長の期待』

 

前編では、浜松イノベーションチャレンジの概要、実施した内容、参加者へのインタビューを掲載しています。
こちらもぜひご覧ください。

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