CASE STUDY

人材育成

ノバルティス ファーマ株式会社:患者中心のソリューション開発推進に向け、プロトタイピングの手法を導入

ノバルティス ファーマ株式会社:患者中心のソリューション開発推進に向け、プロトタイピングの手法を導入

2024.02.15

課題

患者中心のソリューション開発を推進するためのプロトタイピングの手法の導入

bridgeがしたこと

プロトタイピング研修による手法インストール
実践プロジェクトでの伴走

成果

プロトタイピングのプロセス、手法、マインドセットを獲得

ノバルティス ファーマ株式会社 ビジネスエクセレンス&エグゼキューション本部 エコシステム・ペーシェント&サービスソリューションG ヘッド矢花朋さん(写真・左)/シニアリード市川孝浩さん(写真・右)

ノバルティス ファーマ株式会社(以下、ノバルティス)は、スイス・バーゼル市に本拠を置く製薬・バイオテクノロジーにおける世界的リーディングカンパニー ノバルティス(Novartis International AG)の医薬品部門の日本法人です。

同社は2023年1月にエコシステム・ペーシェント&サービスソリューションGを発足。医薬品の基礎研究、開発、製造、販売等の全過程を通じて、「Patient Centricity」を推進する製薬企業を目指して活動をしています。

その一環としてbridgeでは、2023年7月に「プロトタイピング合宿型研修」、8月に「実プロジェクトでの実践伴走」を提供しました。

今回、ビジネスエクセレンス&エグゼキューション本部の矢花さんと市川さんのお二人に、チーム発足の背景からプロトタイピング導入の背景、この1年の活動についてお話を伺いました。

「患者中心」の体制作りを

─Q まずは、チーム発足の背景を教えてください。

矢花朋さん(以下、矢花):近年、製薬企業をはじめとした多くのヘルスケア関連企業で、患者中心の価値創造「Patient Centricity」に目を向ける流れが多く見受けられます。

以前は、医師を中心とした医療従事者に情報提供や体験設計をする機会が多かったのですが、それをもっと患者さん中心にアプローチを変えていこうという発想です。ただ、従来のマーケティング部門がEnd to Endで取り組もうとすると壮大なスコープになってしまい対応が難しい場面も出てきます。

そこで医師や医療従事者、患者さん、行政など、それぞれにフォーカスするグループを作り、その中で患者さんに対する価値提供を考えていくという発想の下、エコシステム・ペーシェント&サービスソリューションGは発足されました。

─Q 患者中心のコミュニケーションを業界全体が考えるようになったのは、どのような理由からでしょうか?

矢花:レベル感の異なる2つの理由があると私は考えています。1つは、医師の考える困りごとと患者さんが抱えるペインにはギャップがあるということです。最終的には患者さんに最適化した治療を施し、QOL(Quality of Life、生活の質)を高めることが大事になるわけですが、医師・医療従事者向けのアプローチだけではこの隔たりを解消できません。

2つ目には、画期的な薬剤が各社製薬会社から開発されてきている中で、生活習慣病や一部のがんなどの患者数の多い疾患における予後が大きく改善してきていることが挙げられます。今後は個別化医療が進み、より希少な疾患に焦点を当てた医薬品開発なども活発になってきます。そうした中、患者さんにとって最適な薬や治療法は何かを考える上で、「患者さんの声を聴く」というプロセスは欠かせません。

市川孝浩さん(以下、市川):従来の製薬事業のマーケティングはBtoBのコミュニケーションが中心でしたが、昨今では患者さんまでを顧客として捉えたBtoBtoCで見るようになってきています。そこで重要になるのが、エンドユーザーである患者さんの声を事業にフィードバックしていくという取り組みです。

エコシステム・ペーシェント&サービスソリューションGが発足したことで、患者さん向けのウェブサイトの改善だったり、治療を支援するようなペーシェントサポートプログラム(PSP)の開発だったりと、患者さんを中心とした展開が多岐に及ぶようになりました。

以前は「薬による治療」という部分だけに焦点が当たっていたものが、診断される前から治療が行われた後まで、病気で苦しむ患者さんのジャーニー全体を捉えた上でのサポートや患者体験を向上させる取り組みなど、対象範囲が大きく広がってきています。

企業側が考える「患者さんに必要なもの」ではNG

─Q 今回bridgeでは、プロトタイピング導入の支援をさせていただきましたが、どのようなきっかけで関心を持たれたのでしょうか?

市川:従来のアプローチでは、「企業視点」になってしまうことが多いと感じていました。患者さん向けのコンテンツやツールは充実しているものの、本当に患者さんの役に立っているのか?と問われると、企業側が考える「患者さんにとって必要なもの」を作っているケースも正直少なくないと思っています。

その点でプロトタイピングは、実際に具体的なアイデアからの試作を基に、それに対する患者さんの反応や声を聴いていくというプロセスなので、ニーズに即したアプローチ、ソリューション開発が可能になっていきます。患者中心の価値創造をしていく上で、最適な方法だと考えました。

─Q リサーチ会社などパートナーに頼るのではなく、自社で学び・実践することを選ばれた理由についても教えてください。

市川:マーケティングやリサーチ、セールスのプロセスを1つ取っても、社内のマインドセットが「従来のやり方が正攻法」となっていると感じていました。一方で昨今では外部環境は大きく変化し、顧客ニーズも多様化してきています。そうした中で、マインドセットを変えていくためにはまず事例を作ることが重要ですが、成果が出るかどうかわからない未知のものに対して会社の承認を得ることもまた難しいと考えました。

ヘルスケアの領域はレギュレーションが厳しく、患者さんの声を集めることも容易ではありません。説得が困難であれば、まずは自分たちで実践・体験をして、手応えを掴むところから始めよう。そう考えたことが、チームでの学び直しからスタートさせた背景になります。

矢花:薬剤の開発は、基礎研究から始まり、非臨床試験、臨床試験等の厳しく規制されたプロセスを経て、患者さんの元に届けられており、新しい薬が誕生するまでに約10年程度かかると言われています。薬は命に関わるものなので当然なのですが、その慎重に薬を開発するという、厳格な考え方が患者さんを支援するためのサービスやソリューション構築においても適用されてしまっていると感じることが多くあります。

すると、患者さんのニーズの変化に対して、フィージブル(実現可能)とは言えないスピード感で対応せざるを得ない状況が生まれてしまうことは否めません。素早く患者さんからフィードバックを得て、妥当性の高いものを作っていく必要がある中で、プロトタイピングは社内のケイパビリティとして早々に築いていく必要があると考えています。

制限の中でもクリエイティブなアプローチを実行

─Q プロトタイピング研修を実施してみて、率直な感想はいかがですか?

市川:2日間の研修のあと、実際のプロジェクトの中で具体的な開発中のサービスに対して患者さんから直接ご意見をいただく機会がありました。そこで改めて患者さんの声を聴くことの重要性を感じることができました。

特にサービス開発では、UI/UXなどの細部が大切だと考えていますが、プロトタイピングのプロセスではいったん具体をぶつけて、そこから具体と抽象を行ったり来たりできるのが魅力で、これらは従来の市場調査からは得られない成果であると考えています。

矢花:市場調査は定型のクライテリアをチェックする要素が強いと感じており、背景にある患者さんのエモーティブな部分などを考慮する余地が少なかったりします。プロトタイピングですと、実際の体験からフィードバックがもらえますので、得られる結果も異なる印象です。

プロトタイピング研修の様子

─Q 実施する上で、大変だった点は何ですか?

市川:製薬業界はやはりレギュレーションが厳しいということもあり、患者さんの声を聴くという点については、予想はしていたものの大変なことも多くありました。社内においても複雑に絡み合ったルールを一つひとつ整理するだけでも時間を要しました。ただ、その中でも打開策が見つかるなど発見もありました。

矢花:1年間続ける中で、制限があったとしても、クリエイティブな発想を持ってソリューションを考えられるのだ、とチームが前向きに考え、様々な打ち手を見つけていく姿を見ることができたのは非常に良かったと思います。こういうプロセスを作れば患者さんにとってもっと良いものができるよね、この方向性ならもっとアイディエーションできるよねと、色々なトライができたのではないかなと思います。ここまでやっている製薬会社はないのではないかと思えるほど、多くのチャレンジができました。

市川:もちろん、まだまだ課題は多く、プロセスの妥当性を検討する必要がありますし、プロトタイピングで患者さんのお困りごとに対して、インサイトを得るためにはさらなるインタビュースキルの向上が求められます。それでもこの1年の取り組みは、石橋を叩いて渡るだけではなく、リスクを取りながらアプローチするというマインドセットを社内に伝えるきっかけになったと思っています。

患者中心の価値創造に向け、組織の温度感を高めたい

─Q エコシステム・ペーシェント&サービスソリューションGが発足して1年が経ちました。成果や進捗状況についてはいかがでしょうか?

矢花:チームの進捗としては順調だと私は感じています。この1年でチーム内の目線合わせも出来ましたし、ケイパビリティ的にも必要なスキルやマインドセットが身についてきていると思います。課題こそあるものの、それは次に進むためのステップとして捉えることもできるので、チームの立ち上げとしては成功だったと私は考えています。

次の1年は、社内からnice to haveな組織という位置づけにとどまらず、よりビジネスインパクトがあるものを成果として生み出せるのだと可視化させていく必要があります。従来の発想に縛られてしまうと、医師や医療従事者を中心に考えた方がビジネス的にダイレクトな結果が得られると捉えてしまいがちです。

そうではなく、患者さんと向き合うことが今後の事業成長に結びつくというコンセンサスに繋げていきたい。患者中心の価値創造はリスキーで異質なものではなく、実は重要なことなのだと温度感を上げていきたいですね。

─Q 今後、会社からはチームをどのように認知してもらいたいですか?

市川:患者中心アプローチの実践者であるというのは勿論ですが、社内において最もイノベイティブであり、クリエイティブな集団と思ってもらえたら嬉しいですね。エコシステム・ペーシェント&サービスソリューションGの活動は新規事業ではないものの、患者さん向けのサービス、ソリューションの開発に従来と異なるプロセスで取り組むという点においては考え方が似ています。既存の発想やアプローチだけではなく、失敗から学習し、恐れずにチャレンジしていくという姿勢を見せ続けていきたいですね。

また患者さんからの声を社内に還元しつつ、そのインサイトを基に、新たなサービス開発をするというPDCAループを作っていくことが今後はより一層重要になりますので、その点を意識しながら次の段階へと活動を進められたらと思います。

──本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

 

取材協力:株式会社ソレナ

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