「現場から有望なアイデアが上がってこない」
「会社は、本当に変わろうとしているのか」
前者は経営層から、後者は現場から。同じ会社のなかで、同じ新規事業を見ながら、まったく違う景色が語られる。この場面に、私たちは何度も立ち会ってきました。
300件を超えるプロジェクトに伴走してきて感じるのは、このすれ違いがいちばん厄介だということです。誰かがサボっているわけでも、能力が足りないわけでもない。それでも前に進まない。
その正体を数字で確かめたくて、2026年6月、調査を実施しました。売上50〜500億円の中堅企業で新規事業に関わる303人。内訳は経営・役員151名、現場マネージャー152名で、ほぼ半々です。同じ設問を、経営と現場の両方に投げているのがこの調査のポイントです。
まとめたものが「INSIGHT REPORT 2026 ──『わかりあえない』構造から紐解く、中堅企業の新規事業。」。この記事では、そのハイライトを解説します。
まず、いちばんわかりやすいすれ違いから。
新規事業が進むとどんな壁に直面するか。現場マネージャーの47.9%が「リソース不足」と答えました。対して、経営層で同じ認識を持っているのは29.8%。18.1ポイントの差があります。
現場は「人も時間も足りない」と言い、経営は「そこまでではないだろう」と受け止めている。中堅企業の会議室で、実際によく起きている光景ではないでしょうか。
では、リソースを足せば解決するのか。
ここが、今回の調査でいちばん確かめたかったところでした。

成果を実感している企業(達成度7-10・n=143)と、停滞している企業(同1-4・n=57)。この二群を比べたとき、差が大きかった要因のトップ3はこうなりました。
| 要因 | 差 |
|---|---|
| 挑戦を評価する仕組み | +47.5pt |
| 外部知見をつなぐハブ | +47.3pt |
| 迷わせない意思決定基準 | +47.1pt |
評価・接続・基準。三つとも、予算でも人数でもなく「構造」です。
現場が感じている「足りない」は、嘘ではありません。ただ、その背後にあるのは量の問題ではなかった、ということです。
社内にあるはずの顧客基盤や技術にアクセスできない。判断が下りてこないから手が止まる。挑戦しても、うまくいかなければ評価に響く。──こうした状態に置かれれば、人と時間がいくらあっても「足りない」と感じます。順番が、逆だったのかもしれません。

レポート本編では、この構造をつくり直すための視点を5つに整理しました。順に見ていきます。

「何を確かめ、どこで撤退するか」の議論に、経営層自身が検証の初期から参加しているか。
成功企業は88.1%、非成功企業は57.9%(+30.2pt)。
現場が求めているのは、言葉による「応援」ではなく、不確実性を共に引き受ける行動なのだと思います。経営が「評価者」として安全な席に座り続けるかぎり、現場は失敗を恐れて無難な計画しか持ち込めなくなる。
ただ、専任役員を置いたり大がかりな会議体を新設したりする必要はありません。むしろ中堅企業の強みは、経営と現場の距離が近いこと。役員が月に一度の検証報告に顔を出し、「何を確かめられたか」を一緒に見る。それだけでも現場の受け止めは大きく変わります。
関与の”量”より、初期に一度深く関わる”タイミング”が効く。これは実感としても、数字としても言えることです。

専門知見やリソースを組織としてつなぐ支援機能(ハブ)があるか。
成功企業79.0%に対し、非成功企業31.6%。差は+47.4ptで、全設問中もっとも大きな開きでした。
新規事業を「特別な部署」に隔離する出島型は、組織全体を動かすうねりを生みにくい。長年積み上げてきた顧客基盤や現場の知恵という”組織の血肉”が、探索の側に流れていかないからです。
とはいえ、新しい部署を立ち上げようとすると人も予算も足りずに頓挫しがちです。中堅企業ではまず“人”に役割を持たせるのが現実的でしょう。部門をまたいで顔が利く人物に、兼任で「つなぎ役」を任せるところから始められます。
あわせて、既存の会議体をひとつ、探索中のテーマを共有する場に転用する。新規と既存の担当者が月に一度顔を合わせるだけで、眠っていた資産が掛け合わされます。
ハブとは箱ではなく、「知が行き交う頻度」のこと。 すでにある接点を意図的に使い直すことが、最初の一歩です。

注力領域(フェアウェイ)と取り組まない領域(OB)が明示されているか。
成功企業81.1%、非成功企業36.8%(+44.3pt)。 さらに成功企業の79.0%が、事前合意した基準でその場でGO/NO-GOを判断していました。
組織の体力をもっとも奪うのは「決めないこと」です。意思決定が先送りされると検証が止まり、「次の判断待ち」という停滞に陥る。
「やらないことを決める」のは、リソースの限られる中堅企業にとって最も費用のかからない打ち手でもあります。全方位に少しずつ張るのをやめ、勝てる可能性のある1〜3領域に絞る。
そしてもうひとつ。現場が迷うのは、やるべきテーマが示されていないからだけではありません。「やめていい」という許可がないからです。四半期に一度、走っているテーマを「続ける・保留・畳む」に仕分ける場を設けるだけで、限られた人と時間が本当に有望なものへ向き直ります。

撤退・中止の際に、経営層が公式に判断し、組織として共有するプロセスがあるか。
成功企業86.0%、非成功企業56.1%(+29.9pt)。
一件あたりの重みが大きい中堅企業では、撤退が「担当者の失点」として記憶されがちです。だからこそ、やめる判断を経営が公式に引き受け、「これは会社の意思決定だった」と明言することが、数少ない挑戦者を守ります。個人の評価と、事業の成否を切り離す。
そのうえで、撤退の場を”学びの棚卸し”に変える。なぜ止めたのか、次に何を活かせるのかを一枚に残し、次の起案者へ手渡す。失敗を隠さず資産に変える文化は、大きな仕組みではなく、一度の丁寧な振り返りの積み重ねから育ちます。
変化の兆しを捉え、新しい価値を創ることは、これから先、限られた人材だけの仕事ではなくなっていきます。
専任チームを置けないなら、日々の役割のなかに小さな問いを織り込む。営業やサービスの現場が、月に数件でも「顧客の困りごと」を持ち帰って記録するだけで、探索は特別な活動ではなく日常になります。
大がかりな制度より、続けられる小ささが肝心です。

5つの潮流は、誰の一手に翻訳されるのか。レポートの最後では、立場ごとに整理しました。いくつか抜き出します。
経営層・役員
推進役のミドルマネージャー
現場の起案者
どれも、来週から始められる大きさにしてあります。全部やる必要はありません。立場ごとに、まずひとつ。
経営と現場が完全にわかりあえる日は、たぶん来ません。見ている時間軸も、背負っているリスクも違うからです。
でも、わかりあえないことが問題なのではない。わかりあえないことを前提にした構造がないことが問題なのだと、この303人の回答は教えてくれました。
評価・接続・基準。この三つを少しずつ整えることが、限られた資源でも探索を成果に変える現実的な道筋になります。
レポート本編では、各シフトの解説と全設問データ、調査設計をAPPENDIXまで含めて公開しています。無料でダウンロードいただけます。
▼ INSIGHT REPORT 2026 のダウンロードはこちら
また、この調査の背景にある考え方は、書籍『自走する新規事業のつくりかた』(翔泳社)にまとめました。手持ちのリソースで成果を出し続ける組織のしくみについて、「わかりあえない」を前提に書いた一冊です。

この記事では数字そのものを中心にまとめましたが、そもそもなぜこの設問を立てたのか/このデータをどう読んだのかという分析の裏側については、ポッドキャストで話しています。あわせてどうぞ!
bridge 新規事業実態調査 2026|2026年6月実施・n=303(売上50〜500億円の中堅企業/経営・役員151名、現場マネージャー152名) 成功=達成度7-10(n=143)、非成功=達成度1-4(n=57)。整備済み率=6段階中4〜6を選択した割合。