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新規事業を自走化する。ってどういうこと?【新規事業の自走化 #01】

大手企業の新規事業開発を中心に支援を続けてきたbridgeが「事業と組織」をテーマに、時にゲストをお招きしながら、bridgeメンバーで自由にディスカッションを繰り広げる「新規事業の自走化」シリーズ。

今回はbridgeのプロジェクトデザイナー大長 伸行と、クリエイティブディレクター村上 雄紀の2人が対談を実施。ここ数年で起きている新規事業開発の潮流について議論を交わしました。

大手企業の新規事業開発の領域で、今なぜ「脱コンサル」のキーワードが広がりつつあるのかまずはその背景にある課題から紐解いていきます。

「脱コンサル」 というトレンド誕生の背景とは?

大長:ここ1〜2年の話ですが、「新規事業開発に取り組み始めたものの頓挫してしまう」という話を多く見聞きするようになりました。これはbridgeが支援するクライアントも例外ではありません。

以前支援をさせていただいた企業に「社内提案制度で採択された事業アイデアのその後はどうですか?」と聞くと、「事業と連携する段階で前に進まなくなってしまった」という声が返ってきたことがありました。

もしかすると、どのコンサルがかかわっても似たような現象が起きているのでは? という問いが生まれ、bridge内でもリサーチを重ねるようになったんですよね。この課題の原因は何で、どうすれば解決できるのだろう、と。

村上:僕が以前、外資のクリエイティブエージェンシーで働いていた時も同じような課題が存在しました。コンサルティングが入って瞬間風速的に事業開発プロジェクトが盛り上がるものの、3〜4ヶ月するとパタっと止まってしまう。

背景から読み取れるのは、コンサルタントという外部の力を借りれば、短期間で新規事業が立ちあがるのではという期待です。でも実際は形になるまでに時間はかかるし、コンサルに任せるばかりでは予算も続かない。

それと同様のことが、大手企業の新規事業開発の現場でも起きていて、昨今の “脱コンサル” と叫ばれるような状況に繋がっている気がします。

大手企業はなぜ「自走化する組織」に向かうのか?

大長:そうした中で、企業が本質的に求めているものは「自走化」だと考えています。根拠というわけではないですが、最近はbridgeへの依頼が準委任型に変わってきているんですよね。契約形態が変化したことで関わり方も変わりました。計画どおりの進行ではなく、状況に合わせた方向転換、ステップバック、そして長期的な伴走がしやすくなったと感じています。

そのため、検証結果に応じてプロジェクトの状況が変化しても柔軟に対応ができるわけです。担当者からも「外部でありながら社内のような感覚がある」と言われます。

こうしたいきさつなどもあり、新規事業は「事業開発」と「組織開発」を同時並行ですすめる必要があるのでは? と考えるようになりました。そして、そこにbridgeが貢献できる余地があるのでは、と。

村上:自走化にも種類があるということですよね。1つの新規事業案件をアイデア検討から事業化まで自社で完遂できるようになる「プロセスの自走化」と、1部の特定社員しか関わっていなかった新規事業活動を、組織や会社全体に広げていく「組織の自走化」の2種類です。

村上:もともとbridgeは伴走型支援ということで、メンタリングやコーチングをベースに問いや視点の共有によって働きかけるスタイルでした。それもあってクライアントからは「コンサルを探していたわけじゃなく、一緒に走ってくれる人を探していた」と喜ばれることが多いんですよね。

大長:「コンサルを探してたわけじゃない」という言葉の中に、色々と感じるものがありますよね。

村上:コンサル離れが加速する要因の1つに、“同質化” も考えられると思います。カオスマップで見ると、この10年くらいで本当に増えましたよね。

大長:ここでポイントになるのが、ソリューションは様々あるように見えて、実は大きなプロセスはすでに決まっている点だと思います。

課題を探して、仮説を立てて、検証をして。細部では企業ごとにサービスの差異はあるものの、大きく捉えると一緒なんですよね。そして結局はどのコンサルを選んだとしても、契約が満了になると、タイミングを図ったかのようにプロジェクトも止まってしまう。

そうなると、「外部の力を借りるのではなく、新規事業開発を自走できる組織にするためにはどうするべきか?」という発想になるのだと思います。

村上:ここ10年間ほどで、新規事業においてもデザイン思考がトレンドとなり、ユーザー視点で事業を立ち上げる手法がスタンダードになりました。ただ、それでも打率は高くないんですよね。

「新規事業の成功確率は千三つ」と言われていて、例えば、リクルートの新規事業プログラム「Ring」に集まったアイデアのうち、事業化フェーズに進むのはわずか2%というデータがあります。

そのうち黒字化に到達するのは約15%で、つまり1,000件の応募があった場合に事業化フェーズに至るのは20件で、黒字化まで至るのは3件(0.3%)ということになります。また、通常新規事業を黒字化するまでの年数は、3年〜5年必要だと考えられている。これでは高額な投資をして事業開発をしても、失敗すれば一からやり直しです。別予算を組む必要も出てくるでしょう。

新規事業を成功に導くためには、とにかく時間がかかる上に、確率から逆算するとトライする圧倒的な数も必要です。もし、新規事業に全社員で取り組むプロセスすべてをコンサル会社や外部企業に委託してしまうと、とてもじゃないですが企業体力が持ちません。こうした背景があるために、多くの企業はどこかのタイミングで自走化を目指し始めるのかなと思います。

「自走化と内製化は、何が違う?」

大長:ここまで「自走化」のワードが何度か出てきましたが、ではどんな状態なら新規事業を自走する組織だと言えるのか。外注せずに内製化をすればいいのかというと、きっとそれも違うと思うんですね。

私が定義を考え始めたのは、ミズノの中嶋さんと一緒にイベント登壇した時でした。彼の話で興味深かったのが、既存事業であれば量産化までスムーズに事が運ぶのに、新規事業になった瞬間に特別な稟議や会議体、ルールが生まれ動けなくなってしまうと。

村上:100%内製化することが、イコール自走化ではないという示唆がありますよね。外部には何をお願いするのか、外部を巻き込んだチームはどう作るのか。そういったことも含めて考える必要があると。

近しい事例だとテック比率という考え方が参考になります。これはエンジニアの仕事を外部に任せすぎるとPoCの回転速度が落ちてしまい逆にコストがかかることから、うまく外注と内製のバランスを取りましょうという発想です。

これと同じように、外部を巻き込んでチームを作る際の適正比率が「自走化する組織」にもあるのかもしれません。

大長:自走化する組織の1つの事例として、株式会社DIFF. を立ち上げたミズノ社員、清水さんの出向起業も該当すると思っています。これは、社員として会社から給料をもらいながら外で起業をするという比較的新しい枠組みです。

村上:新規事業のチームの作り方って起業家のような動き方ですよね。リーダーが外部からリソースを引っ張ってきて、ネットワークを作っていくという。清水さんの場合はこれを、会社の傘の下で実行したという点が新しかったですよね。

大長:これは深い話ですよ。外部を巻き込んだチームであっても、会社の一部としてオーガナイズしているわけで。内製化が示す範囲が大きく変わってきています。本当に会社の内と外の垣根が消えてきた感じがありますよね。

新規事業を成功させるリーダーの素養

大長:自走化する組織づくりのために、外部をどこまで巻き込むべきか? という話をしてきました。一方で、絶対に内製すべき部分はどこかという議論も重要です。

これは私の仮説ですが、リーダーやミッションは社内起点であるべきではないでしょうか。

村上:リーダーは絶対に社内である必要があると思います。反対に、筋の良いビジネスアイデアはそれほど重要でなかったりする。

これは僕の考えですが、一見して筋が悪そうなアイデアも、磨けば光り輝くような原石であれば十分というか。ここで大切なのは、しっかり磨き上げるまでやり抜く力、耐え抜く力を持っているリーダーの存在の有無です。

大長:角度は少し変わりますが、新規事業を牽引するリーダーの存在が必要な一方で、トップマネジメントのコミットもまた求められていると感じます。

これまで多くの会社の社内提案制度を見てきましたが、360°どんな事業アイデアでもOKとされた場合の採択率が低いというか、経営陣のGOサインが出にくい傾向があるんですよね。

逆に経営陣が「この領域で新規事業を創るんだ」と方針を明らかにしている場合、アイデアの種がしっかり花開き、大きく事業もドライブしていくケースが多い。

トップマネジメントは「可能性を閉じたくない」と新規事業の領域を曖昧にすることなく、意志とセンスと情熱を掛け合わせ、「ここだ!」という場所に覚悟を決めて張る。それが非常に重要だと感じています。

自走化する組織をつくるための、はじめの一歩

大長:脱コンサルというトレンドから始まり、自走化する組織が求められる理由、新しい形の組織、リーダーに必要な素養などに触れてきました。

ここまで読み進めてくれた方からすると、「では来週から何をすればいいの?」と具体的なアクションを知りたいと思っているかもしれません。こうした話題は抽象的になりがちで、しかも企業ごとの課題に合わせて個別化しなければ打ち手も見えてきません。

この時点で1つお伝えできるとすれば、社内提案制度で良いアイデアを集めようとする前に、運営側のメンバーは野心を持つようにしましょう、ということです。

「どうすれば自分たちは新規事業を『組織の自走化』によって生み出し、新商品や新サービスを世の中へ展開できるだろうか?」

そう自分たちに問うことから始めることをお勧めしたいです。

村上:自走化をゴールにするのは大切なポイントだと僕も思います。社内公募制度をどう運営しようかとスポット的に考えるのではなく、もっともっと上流の部分から運営側が設計をすることで、最終的なアウトプットが大きく変わるのは間違いないですね。

大長:そのためには、対話の場を経営陣が持つことからスタートさせることが大事です。

bridgeでは組織をアセスメントするフレームワークを独自開発したので、そういったツールを用いて会話を始めてもらえたら、きっと良いヒントが生まれると思っています。

その上で、大企業だからこそ実装し得る「自走化の仕組み」を手に入れてほしいなと思っています。社員を多く抱える大手の強みを活かし、一人でも多くのリーダーを輩出してほしいですね。

村上:スタートアップ企業の場合は、創業者が一人で走り始めるところからスタートするので、自走がデフォルトです。

大企業の社内でもこのような起業家マインドを持つメンバーを育てることができれば、新規事業の自走化は大成功だと思います。

大企業ならではのリソースを活かした「自走化する組織」がこれから次々に生まれることが楽しみですね。

bridgeも「クライアントを卒業させる」をモットーに、新規事業開発に必要なことをできる限りお伝えする人材育成にも力を入れています。

こうした点についても、次回またお伝えしたいと思います。

 

取材協力:株式会社ソレナ

 

【新規事業の自走化 #02】「スタートアップ VS 大企業 新規事業の独自スタイルとは」の記事はこちらから↓

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