TOPICS
こんにちは、bridgeの大長です。
本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を自走できる組織になるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマについて具体的な事例をもとに紹介しています。今回が第5回目になります。
前回は、プロセスの自走化編として「プロセスと体制」に注目し掘り下げましたが、今回は、「意思決定」に着目し、特に重要な3つの要素について事例を交えて考察していきます。
それでは、始めましょう。
今回も、「従来の組織」と「新規事業を自走できる組織」を比較しながら、自走化に必要な要素について深掘りしていきましょう。
従来の組織では、新規事業アイデアの評価基準が短期的な成果やリスクに焦点を当てた意思決定によってなされる傾向があります。多くの企業では、新規事業がすぐに利益を生み出すかどうか、あるいは直近の市場ニーズに応えられるかが重要な判断材料となるためです。しかし、新規事業が中長期で非連続的に成長し、競争力を維持できるかを見極めるためには、短期的な視点だけでは不十分です。
大企業における新規事業においては特に、既存事業とのシナジーも加味した中長期的な戦略や構想に基づいて、初期段階から大規模な投資を実行できる強みを持っています。一方で、スタートアップの場合、投資家から短期的かつ段階的な成果が強く求められるため、限られたリソースの中で素早く結果を出すことが重要になります。大企業は時間と資金の余裕を生かして、将来の事業成長を見据えたより大胆な投資を行うことが可能なので、スタートアップと比較しても事業の初期フェーズでシェアを一気に拡大することができます。
ワンキャリアプラスの記事「スタディサプリで市場を創った経営者に聞く事業づくりの秘話」でも触れられているように、大企業は中長期の視点で戦略に基づく大規模な初期投資を引き出すことができ、持続的な競争優位性を確立しやすい点が際立っています。これにより、リスクを許容しつつも、大きな成長機会を狙った意思決定が可能となります。このような中長期的な戦略に基づく評価視点を持つことが、新規事業の成功を支える重要な要素です。
従来の組織では、新規事業における評価の対象は主に「課題設定」や「アイデア」に集中することが多く、革新的で実現可能なアイデアがあるかどうかが重要視されます。しかし、新規事業の成功においては、ソリューションアイデアそのものだけでなく、それを実行できる「人」や「チーム」の能力や人間性が同等に重要な要素となります。
30万部を突破しベストセラーになったこちらの本でも話題になった「やり抜く力」ですが、【記事】起業家に必要な「3つの素養」/ アカツキ 塩田元規CEOでも、アントレプレナー・イントレプレナー(社内起業家)どちらにも「やり抜く力(グリット力)」が重要であることが強調されています。ここで語られているように、アイデアそのものよりも、グリット力を持った人材が最終的に事業を成功させる要因となることが多いのです。具体的には、その人やチームが、逆境に直面した際にどう対処するのか、目標を達成するためにどれだけの情熱と粘り強さを持っているかを見極めることが評価の一部となります。
企業がグリット力を評価する際には、過去の成功体験や失敗からの学び、困難な状況でどのように対応してきたかといった実績や経験に注目します。例えば、新規事業に取り組むリーダーやチームが過去に直面したチャレンジをどのように乗り越えたか、そのプロセスを評価することが効果的です。こうした視点を持つことで、単なる「アイデアベース」の評価ではなく、事業を実行し成功させるための「実力」を兼ね備えた人材やチームを見極めることができるようになります。
最後に、意思決定のスピードについてです。従来の組織では、意思決定が多層的な承認プロセスを経ることが多く、その結果、時間がかかりすぎることがあります。このような状況では、迅速な市場の変化に対応できず、新規事業の立ち上げに遅れが生じる可能性があります。
新規事業を自走できる組織では、意思決定の権限が現場に移譲され、スピーディな判断が可能です。特に、権限移譲を通じて現場のチームが自律的に意思決定を行うことで、意思決定のスピードが格段に向上します。
例えば、All Star SaaS Fundの記事では、企業における権限移譲の重要性が指摘されています。リーダーが全てを決めるのではなく、現場に判断を委ねることで、意思決定が迅速に行われ、事業の進行が加速されるのは目に見えて明らかですが、その権限移譲の方法も近年多様化してきています。
また、AlphaDriveのイベントレポートでは、三井物産グループの「Moon」から生まれた新ビジネス 「Suup」を例に挙げ、戦略的意思決定に関わる新たなチーム体制の在り方について語られています。従来、コミット度の低い社員は会議においてコメンテーターになりがちで、戦略的意思決定に参加せず、業務自体も意思決定にはほとんど関わっていない状況に陥りがちです。その結果、、実質的に経営陣やプロジェクトリーダーのみが意思決定を行うような状態になるケースが少なくありません。「Suup」では、立場や役割を問わず、コミットの高いメンバーがより意思決定に積極的に関わる体制が整備されています。これにより、質の高い対話が実現され、より良い戦略的意思決定が行われるようになっています。
みなさんの組織では意思決定の要素として、起案者の資質をどのように評価していますか?
高いGRITを持つ人は、失敗を個人の限界ではなく、アプローチや努力の問題と捉えるため、改善策を探り続けます。
たとえば以下の問いを通して、起案者が一貫して長期的な目標を追求し、困難を乗り越える力を持っているかどうかを確認してみましょう。
長期的なビジョンと情熱
「あなたの事業のビジョンやミッションを教えてください。それはなぜあなたにとって重要なのですか?」
継続的な努力
「事業を進める中で、大きな失敗を経験したことはありますか? その時、どうやって立ち直り、再び挑戦しましたか?」
困難を乗り越える力
「新しいアイデアや方向性を試みた時、それが期待通りに進まなかった経験はありますか? その時、どのように適応しましたか?」
自己改善と学び
「事業を通して、自分自身に課している成長目標は何ですか?どのように達成に向けて取り組んでいますか?」
情熱の持続
「この事業を進めるにあたって、情熱が試されるような時期がありましたか?その時、どうしてやる気を保てましたか?」
TOPICS
Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方