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Vol.4 プロセスの自走化:プロセスと体制

こんにちは、bridgeの大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を自走できる組織になるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマを具体的な事例とともに紹介しています。
今回は第4回目となり、「新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み」に注目します。
このテーマは、まさに多くの企業が現在取り組んでいるもので、新規事業の成果を左右する重要なポイントです。
前回は「仮説検証活動」に焦点を当てましたが、今回はその中でも「プロセスと体制」に着目し、特に重要な3つの要素を事例とともに考察していきます。

それでは、始めましょう。

1. 専門性

◆従来の組織:

従来の組織では、新規事業に関わる社員数も少なく、その推進と成功を「起案チームの能力・スキル」に大きく依存してしまうケースが多くありました。
特定のチームメンバーが持つ知識や経験がプロジェクトを推進するため、スキルが欠けた際や主要メンバーが他のプロジェクトに移動した場合、活動全体が停滞するリスクがあり、また検証が進むにつれて必要な専門性やスキルも変わっていくため、正しい検証を行えず事業判断を誤ることも少なくありません。

◆自走する組織:

自走できる組織では、事業フェーズに応じて社内外の専門性を柔軟に取り入れる体制が整っています。
例えば、初期段階ではプロトタイピングや技術的なスキルが求められますが、市場に展開する段階ではマーケティングやビジネス戦略に強いメンバーが重要になります。
このように、フェーズに応じて必要な専門性を取り入れることで、事業の推進を安定させることが可能です。 

事例:QUINTBRIDGE

組織にない専門性の獲得は外部のプロフェッショナル個人への委託だけではありません。
NTT西日本が大阪で運営するオープンイノベーション施設QUINTBRIDGEは、企業・スタートアップ・自治体・大学など、幅広いステークホルダーが集まり、共創を通じて社会課題を解決することを目指しているコミュニティです。
専門チームを自社の中で常に確保するためには膨大な固定費がかかりますが、例えばこういったネットワークを活用し、事業フェーズごとに外部のチームと連携し、最適なスキルセットを組み合わせてプロジェクトを推進することも可能です。
たとえば、技術面での開発が重要なフェーズではその技術を有するチームを、マーケティングフェーズでは販売チャネルを保有する組織と連携して、プロジェクトの成功確率を高めている企業の成功例も多く見られます。

2. 検証体制

◆従来の組織:

従来の組織では、事業検証プロセスの大半を外部企業に委託することが一般的でした。
外部のリソースを活用することで専門性を補うことはできますが、検証プロセスが社内でコントロールできないため、迅速なフィードバックが得られず、事業の改善サイクルが遅れることが多々あります。 

◆自走する組織:

一方、自走する組織では、事業検証のプロセスとそのために必要な専門チームを自社で内製化し、スピード感を持って市場のフィードバックを受け取り、改善に活かせる体制を構築しています。
これにより、リアルタイムで顧客の反応に対応し、仮説を素早く検証し改善を重ねることができ、プロジェクトのスピードを落とさずに進めることが可能になります。

事例①: パナソニック社

以前bridgeの過去記事でもご紹介した、パナソニック株式会社のマニュファクチャリングイノベーション本部では、特に事業検証の初期フェーズにおいて、検証設計からMVP製作までの一貫して支援する専門チームを社内で組織し、仮説検証を進めています。
このチームは、市場から得たデータを即座にフィードバックし、仮説を迅速に改善できるようにするため、外部依存による遅延を回避しています。このような体制は、製品やサービスの検証サイクルを短縮し、スピーディーに市場対応ができる強みとなっています。

事例② キャノンマーケティングジャパン社

こちらも過去の記事でご紹介したキヤノンマーケティングジャパン株式会社の事例では、事業検証の体制を内製化するだけでなく、全社的なイノベーター人材の育成やスタートアップとの共創と連動した活動を展開しています。
社内の専門家チームが全社のハブとして機能し、個々のプロジェクトの検証支援にとどまらず、全社戦略との整合性を保つことができ、結果として活動全体の強化に繋がっています。
これにより、仮説検証のナレッジが蓄積され、企業全体のリソースを底上げする体制が構築されています。

3. 評価プロセス

◆従来の組織:

従来の組織では、事業のGo/No-Goを感覚的に判断することが多く、評価基準が明確でないために判断が一貫しないことがあります。このようなプロセスでは、事業のリスクが見逃されることがあり、結果的に失敗するリスクが高まります。

◆自走する組織:

自走する組織では、段階的な評価プロセスを導入し、事業の進捗やリスクを定量的に評価することで、次のステージに進むべきか否かを客観的に判断する仕組みを持っています。これにより、事業が適切に進行しているかどうかを明確に評価し、必要な改善を素早く反映させることができ、事業の成功確率を高めています。

※新規事業を段階的に評価する「ステージゲート」とは

新規事業の検証において多くの企業が導入を進めている「ステージゲート」とは、新規事業を段階的に評価し、進捗を判断するプロセスです。
例えば、富士フイルムやリクルートのような企業は、アイデアから市場投入まで各段階でリスクを評価し、次のステージに進むかどうかを決定します。
このフレームワークは、導入して終わりではなく、対峙する業界や自社の特性に応じて柔軟にチューニングする必要があり、市場環境や企業戦略に応じて評価基準を見直し、常に適切な判断ができるようにアップデートが求められます。

事例①: 三井物産
三井物産は、従来の経営幹部の知見や経験に依存する意思決定から脱却し、外部の専門家アドバイザーを活用した評価体制を導入しています。
外部の視点を取り入れることで、事業進捗をより客観的に評価し、リスクを早期に発見できるようになり、事業の成功確率が高まっています。

事例② :コニカミノルタ
コニカミノルタでは、イノベーション推進委員会に別予算を持たせ、委員会が投資判断を行う権限を持つ体制を構築しています。
このような体制により、評価プロセスは形式的なものに留まらず、予算とリソース管理がスムーズに進行します。これにより、迅速な意思決定と資源の適切な配分が可能となり、事業が停滞することなく進められています。

◆ひとりからはじめる第1歩

皆さんの組織では、社内からアイデアを募集し、採択した後、どのようなステップで市場導入まで進めていますか? そのプロセスの中で、どこにボトルネックがあるかを把握していますか?

自走する組織づくりの第一歩として、自社に適した「ステージゲート」の導入を検討してみましょう。
まずは各フェーズで求められるスキルや知識を洗い出し、それに応じたチームやリソースをどのように確保するかを考えることが重要です。
初期段階では仮説検証やプロトタイプ作成のスキルが必要ですが、次のフェーズではマーケティングや事業展開に関する知識が求められます。
ボトルネックを解消しながら、小さなステップから自社に最適なプロセスを見つけることが成功への鍵となります。

今回も長文を読んでくださりありがとうございます、次回Vol.5では「意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準」をテーマに考察していきます。おたのしみに!

 

TOPICS

Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方

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